第七話・それぞれの決定・





「・・・頭領、全員終了したッス」
「おぅ、わりぃなダグザ」

ダグザの報告を確認しシュネィヴァは「ティルータ」号の甲板に集まった船員を見渡す

昨日のことを話すためシュネィヴァは一度「ティルータ」に戻ってきた
しかし思わぬ騒ぎと罰で時刻は夕方

そしてこれからの話は騒ぎの一件のせいで進んで罰を受ける全員の監督者になった副船長のダグザさえ内容を知らない

シュネィヴァは未だ脇に控えているダグザを横目で見つつ全員に聞こえる声量で話を始めた

「いきなりで悪いな皆、こんな風に集めたからには・・・と薄々感ずいてる奴もいるだろう
今から話すことは多分重大なことだ」


全員が大人しくシュネィヴァの声に耳を傾けている
大の大人達が一人の子供に、なんと奇怪な光景だと中心で喋るシュネィヴァは思う


皆いつもそうだ、

俺のことを彼と重ねる


それは度々思うコト
だけど今はまだそんな個の意見を表に出す時ではない
シュネィヴァは胸の内の感情を隠し、言葉を紡ぐ


話したのは姫祇に関するこの世界に起きたこと
とはいえお世辞にも我が「ティルータ」号船員一同は頭がよろしくないのであくまでも簡節に

肝心なのはジェイドの提案「バンエルティア号に滞在し姫祇と行動を共にすること」



「・・・と言うわけなんだが」

一度話を区切り船員の顔をざっと見る

・・・全員唖然とするか、やっぱ

揃って口を半開きにする船員達
脇にいるダグザだけは分からないが、きっと口をへの字に曲げるくらいの反応はしてるはずだ


「そこで、全員に意見を仰いで「ティルータ」の今後の動向を考えたい・・・ま、極端な話今まで通りの働きを“する”か“しない”かだな」


ここでやっと全員ざわつきだす
極端な例とは言ったが大方そのようなものだ
シュネィヴァ船の役割は“頭領”
頭領がいる、いないで現場の指揮が変わるくらい重要な位であることは幼児でも分かる


喧騒から湧き出るのは、“迷い”や“不安”
それは大多数の人間がまず思うことだ、自分だってそう思う
だから、


「・・・結論の前に、一つ聞いてもらいたい」

先程と比べれば幾分か弱々しい声
しかし一瞬でざわつきが止んだ

全員の眼差しが、期待を寄せられるだけの信頼が、喉を詰まらせる
一人前に程遠い自分へ向けられる痛くて苦しいソレにどうしても慣れない
けれど勇気を振り絞りシュネィヴァは全員に己の気持ちをぶつける

「・・・俺は・・・・・・」




ファテシア号船内

「だから・・・お願いします!船長!」

頭を深く、深く下げてファテシア号船長補佐―マリカは懇願する
対し机を挟んで正面に座る船長は軽く溜め息を吐いた

初老の男性である「ファテシア」号船長は年の割にがっしりとした体つきと立派な顎髭が目を引く
薄く開く空色の瞳に皺の寄った目尻、一見すれば温厚そうな老人だがその眼光には長年海を相手に船を進めてきた確かな力強さがある

彼はもう一度マリカにその瞳を向けた


「顔を上げなさい」

優しさと威厳の含まれた命令にマリカはゆっくりと顔を上げた
二人の視線がぶつかる


「・・・本当に、お前はそれで良いのだね?」
「・・・はい!」

数秒間見つめ合い、静かに船長の瞳が閉じられた


「・・・よかろう、お前の選んだままに行きなさい」

「・・・!ホント・・・!」

「あぁ」

「・・・っ!ありがとうございます!!」

マリカが嬉しそうにもう一度お辞儀をし、さっと身を翻した

「じゃあシュネィヴァに知らせにいくね!本当にありがとうおじいちゃん!」

早々と荷物を纏め飛び出していくマリカの背中へ

「いっておいで、お前が信じる通りに・・・」

“おじいちゃん”と呼び慕う尊大なる船長の言葉がかけられた




港付近のある民家

「・・・お願いします」

「「・・・・・・」」

深く頭を下げてチィリカは強く瞼を閉じる
その正面に並んで座るチィリカの両親は明らかに動揺し互いに顔を見合わせた

チィリカは大人しい子である
故に自分の意見を強く主張しない子だった、今この時までは


「チィリカ・・・顔を上げてごらん?」

父親の声にチィリカはゆっくり顔を上げる
そこにはいつも以上に真剣な眼差しの父と母
初めての緊張に掌に汗が滲むのを感じた

だけど、瞳を逸らすことはなく

その意思を感じただろう両親は真摯な瞳をチィリカに向ける


「お前は・・・本当にそうしたいんだね?」

「・・・はい」


「そうか・・・
チィリカ、くれぐれも怪我はするなよ?」

「・・・!じゃあ・・・!」


目を大きく見開く我が子の手を二つの手が包み込む
誰よりも心配しながら、誰よりも成長を願う親の心情が温もりと共に伝わってきた

「気を、つけてね?」


母の優しく涙に潤んだ瞳
チィリカはもらい泣きしそうになるのを堪え

「・・・お父さん、お母さん・・・行ってきます・・・!」

精一杯の意思を込めて温かい我が家を後にした

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