序章・いつも通りの朝・


「頭領!波が高くなってきたッス!」

「この位何でもねぇよ!ちったぁ自分の脳味噌で考えろボケ共がぁ!!」

「「アイアイサー!」」

「そりゃ海賊の返事だろ!言葉遣いはちゃんとしろ!」

「「はいッス頭領!」」

「・・・ったく」


海洋を進む中型船「ティルータ」
朝早い甲板はとても奇妙な光景だった

波に狼狽えるのは体格の良い「海の男」達
それがほんの数センチの波に怯えている
船が少し揺れた程度でこれは少々、いやかなり情けない

しかもそんな頼りない男達に「頭領」と言われるのがまた変わっていた

「ティルータ」の小さな頭領―シュネィヴァ
歳は16
周りを一喝し指揮する姿はまだ幼さを残し
余り肉のついていない体つきは「華奢」「細身」という感想が浮かんでしまう

そんな若き頭領は指示後、眉間にしわを寄せる

『毎日のことなのに・・・いい加減慣れろよ・・・』

情けない男達と若き頭領の日常はいつものように頭痛から始まった




船が海原を走ること数十分
今日も目的地である港町に着く

乗組員達はやれもっとスピードを抑えろだの、やれもっと頭領のためにだの騒ぎながらも「ティルータ」はいつも通り入港

騒ぎ立てる船員を尻目にシュネィヴァは船を降り、そのまま町の方へ

数歩足を進めると

「シュネィヴァ〜〜!」
と聞き慣れた声が響いたので足を止める

視線を動かせば見慣れた人物が手を振りながら此方へ近づいてくる
シュネィヴァは手を軽く上げ名前を呼び返した


「マリカ!」


名前を呼ばれた人物―マリカは「ファテシア」号の「船長補佐」をやっているシュネィヴァの友人
快活で頑張り屋
腕はシュネィヴァと比べてまだまだ未熟だがやる気は人一倍


そんな同い年の補佐殿は隣に来るなり嬉しそうにくるくる回ってシュネィヴァに笑いかけてくる

「へっへへ〜、今日も良い天気だねシュネィヴァ〜晴れって清々しい!」

「気持ちは分かるが踊り出す程のものでもねぇと思うぞ」

「そんなことない!元気なら元気をアピールするのが元気の秘訣!」

「へーへー、分かりましたよっと・・・」

いつもの会話、毎朝の習慣
それを軽く流しつつシュネィヴァは再び歩き始めた
マリカも同じ方向へ歩き出す、目的地は一緒


それはほんの数年前に日常化した義務
この世界の国民全員に公布された法律


「ほら早く学校行こう!シュネィヴァ!」

それは「義務教育」



・義務教育制度について
○7〜15歳までの男女は学校に通い勉学に励むことを義務とする
○どんな事情があれど二十歳以下であれば原則5年は学校に通わなければならない


彼等は幼い頃からそれぞれの船に乗っていたため法律制定当初は学校に通っていなかった

そんな二人が学校に通い、互いに知り合ったのが三年前

すでに義務教育期間を過ぎている二人だがまだ原則教育期間を終えていないため、今年から特殊クラスに進級することとなった



「おはようシュネィヴァ、今日も元気そうだね」

「うっす!シュネィヴァ!」

「おはようマギリ、幸(ゆき)」

校門付近で二人の男子生徒に挨拶され、挨拶を返すシュネィヴァ

クラスメイトのマギリと幸
マギリは背が高く、幸は筋肉ががっしりしている

彼等はシュネィヴァより2つ、3つ年上だ
これが特殊クラスの特徴

全員義務教育期間を過ぎ尚且、原則教育期間を終えていない生徒達なのだ

その為こうした年の差が生まれる

初めこそ戸惑うが、この港町の学校に通っている者の殆んどが船員または関係者
海に生きる者の近親感から彼等は快くシュネィヴァ達を受け入れ、またシュネィヴァもその雰囲気に問題なく溶け込めた



「ぶぅー!何かわたし除け者っぽいよー!ひっどーい!」

一人だけ挨拶されずにスルーされて、ぎゃーぎゃー喚き出すマリカ
しかしそれは長く続かなかった


「マリカ・・・」

小さな声が後方から聞こえて振り返る
途端にマリカの顔が輝いた

「あっ!チィリカ!おっはよぅ!」

「おはよ・・・」

ひっそり立っているのはチィリカ
この港町の漁師の子供で海の流れを読むのが得意・・・らしい
仲の良いマリカはそう言っていた

ついでに魔法に長けるとか天気予報できるとか・・・マリカからの情報は尽きないが実際見たことがないので確かめようがない

朝からハイテンションなマリカの姿にチィリカはふっと微笑みを浮かべシュネィヴァ達に合流する


「おっと・・・そろそろ準備しなくちゃな・・・」

そう呟いたマギリが授業準備のためにいつものように輪から抜け、早足で校舎内に消えた、手伝いの幸もそれに続く

残り三人は普段通り海のことや町のことなど雑談を交えながら教室へ足を進めていった




(海の声が聴こえたの?)
(いいえ、それは歯車の音)

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