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無自覚、怖い



ばったりってこの事だ。

「朝市巡りよ!」ってヒナに叩き起こされて人がごった返す市場を見て回ってた。
そんな人混みの中から現れたのが、ヒナの友達の夜途乃さん。
彼がいれば当然ながら連れ人の狗縲もいて、なんやかんや話す内に朝市巡りを二人一組の三ペアで回る流れになった。

ヒナと夜途乃さん。
ルーフィとガル。
そして、オレと狗縲。





「・・・街ってこんなに人が居るんだな」
「うん・・・ボクもここまで賑やかなのは初めて・・・」

人混みから外れた、道路端のブロックの上に座りながら二人で人波を眺める。
あまりの動きに圧倒されてそこに紛れ込む勇気が起きない。狗縲も同じようで、二人して初っぱなから目的である「朝市巡り」を諦めている状態だ。

「だけどいくらなんでもこのまま二時間は暇だなぁ」
「そうかい?ボクはなかなか人間観察も面白いと思うけれど・・・」

足をぷらぷらさせれば狗縲が隣から覗き込んでくる。ちょっと前だったらこの仕草の後すぐに顔を寄せてきたりされて逃げの体制をとってたが、今ではその危険はなくなった。
代わりにむずかゆい。
なんと言うか、じっと見られると意味もなく何か喋らないといけない焦りに襲われる。

えー、うー、と唸りながら辺りを見渡すと人の少ない一画が視界に入った。

「あっち行ってみようぜ、暇潰しできそうだし」

狗縲はオレが指差した方を見て、いいよと言った。




しゃらりという音がして店の軒先に吊られた商品が微かに揺れる。
色とりどりの糸細工みたいなのがずらりと並べられた土産屋のようだ。
いかにも人が立ち止まりそうな店だが、どうやら主人の人相がそれを阻んでいるらしい。
やけに強面な男性がじっとりと店番をしている中で、二人はそれらを眺めていた

もっとも、主に楽しんでいるのは唯なのだが。


「うわぁ、これなんかキラキラしてるな!でも・・・紐?糸?」
「これはね、水引という工芸品だよ。紙でできているんだ」
「うぇ?紙なのか?」
「うん。ボクの故郷辺りではお祝い事にこれを贈るんだ。ほら、そっちの亀を模した物なんかは長寿を願うものなんだ」
「・・・なんで亀?」
「“亀は万年”って言葉があってね。ボクの地域では亀は万年生きるとされているんだ」
「亀ってそんなに長生きなのか!?」
「例え、だよ」

へぇーと頷きながら次の品を物色する。
目に留まったのは二股の串に飾りがついたものだった。


「なぁ狗縲。コレなんだ?ちっちゃい槍?」

ひょいと一本持ち上げてみせると、狗縲は小さく吹き出した。

「なっなんだよ!」
「くっふふ・・・そ、れは・・・槍じゃないよ。女の人の髪飾り」
「髪飾り?」

狗縲の手が伸びてきて髪飾りを受けとる。

「かんざしって言ってね。こうやって・・・」

すっと、かんざしとやらを髪と皮膚の間に差し込まれる。途端にまた狗縲が小さく吹き出した。

「自分でやって笑うなよっ!!」
「ごめ・・・ん・・・でも、可愛くて・・・」

口元を覆って笑みを隠してるようだが、目元も緩んでいるので意味がない。不満に頬を膨らませながら髪に刺さったかんざしをやや乱暴にとった。


「・・・勿体ない」
「なにがだよ。大体、女の人の髪飾りなら狗縲がつけたらいいじゃないか」

ちょっと背伸びして先程の狗縲の動きを真似て彼女の髪にかんざしを差してみる。成る程、二股の間に髪を挟んで固定するものらしい。


「へ〜こんな感じなのか」


じっと見ていると徐々に狗縲が体をもじもじし始める。


「・・・その・・・唯?」
「うぇ?なんだ?」
「あの・・・かんざしっていうのは・・・髪が長い人がつけるものなんだよ・・・?」
「そーなのか?でも狗縲、オレに差したじゃん」
「それは・・・例えだよ」


そう呟いて、狗縲はかんざしをとるために自分の髪に手を伸ばす。


「でも、けっこー似合ってると思うのにな」





ピタッと狗縲の動きが一瞬止まる。

その後ゆっくりとかんざしを髪から外し、それを壊れ物を扱うように優しく定位置に戻した。


「ゅ・・・唯・・・あっちに食べ物屋さんがあるから・・・行こう」

ピッと指差された方を見ると、確かにそれらしい店が見えた。

「おう!そろそろ腹減ってきたもんな!」


じゃあ行こうぜと二人で一緒に土産屋を後にする。



「・・・反則だよ」
「うぇ?なんか言った?」

くると振り返ると、直ぐに前向かされてしまった。
だから狗縲がどんな顔をしてるのか見ることはできなかった。






似合ってるだなんて、

君に言われたら嬉しくてたまらないじゃない。


唯は本当に恐ろしいと、狗縲は改めて再認識した。





++++++
お友達レベルに上がってちょっと経った頃。
唯はまだまだ意識してません。

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