温かさ
俺は両親を知らない。
物心ついた頃には孤児院にいて、楽しみはたまにウォルと遊べる時間と、拾った宝物の石を見て想像を膨らませるくらい。
だから知らなかった。
「ん・・・?」
不意に目が覚めて、寝ぼけ眼で辺りを見渡す。
パチパチと焚き火の火がまだ基地を照らしていた。
はて?と思いのろのろと体を起こすと、すぐそばで小さく動く気配。そこへ視線を動かせば、探した姿がぱちぱちと目を瞬かせてこちらを見つめていた。
「リフル・・・・・・まだ起きてたのか?」
「うん・・・あの、ファイアルを起こしちゃったかな?」
申し訳なさそうに言うリフルに違うと首を振れば、彼女はホッとした様子で微笑む。
そしてゆっくりとこちらに近づいてきた。
「あのね、何だか眠れなくて・・・だから星を見ようとしてたの」
「星?」
うんと頷くリフルが先程までいた箇所は、確かに外が一番よく見える箇所だ。
サメハダ岩の口に当たる隙間は、風は辛いものの見晴らしは最高だ。
「で、いい夜空は見れたか?」
「それが・・・曇ってて何も見えないの」
「何だそりゃ」
「だからね。もしかしたら眠くなるかな〜って思いながら雲が晴れるのを待ってたんだよ」
「どのくらい?」
「・・・多分一時間ぐらい」
長いだろう。
普通なら諦めるだろう。
しかし、リフルは見れずに落ち込んでる風もなくにこにこと微笑んでいる。
「リフル、ちょっと手貸して?」
ホイと右手を出せば、リフルは首を傾げながらおずおずと手を重ねてきた。
「・・・やっぱり」
その手は大分冷え込んでいた。そりゃそうだ、一時間もじっと同じ場所に座り込んでいたのだから。
「たまに体温めろって・・・焚き火ついてるんだから・・・ホラ、反対の手も」
「ん・・・うん・・・」
「うわぁ・・・冷たいなあ」
思った以上の冷え方にリフルを出来るだけ焚き火の近くに移動させる。ぎゅっと手を握ったり揉んだりして温かくなるようにしてやると、不意にクスッと小さな笑みが聞こえた。
見ればリフルがおかしそうに笑っている。
「な・・・急にどうした?」
「ごめんなさい、ファイアルがあまりにも一生懸命にしてくれるから」
きゅっと小さな手が握り返してくる。それと同時にトクンと胸が跳ねた。
「ありがとう。ファイアルは温かいね」
ふわりと微笑まれ、急に恥ずかしくなり顔が熱くなる。それを誤魔化そうとそっぽを向いて言葉を返した。
「あ、当たり前だろ・・・俺、炎タイプなんだし」
「ううん、違うの。体の温かさじゃなくてね。別のもの」
「別の・・・?」
「気持ちだよ。ファイアルの気持ちが温かいって私は思ったの」
ドクドクと心臓の音が耳元で響いてるような感覚。なんと言うか、恥ずかしい。リフルの言葉が。
それに、
「お・・・れはそんな、温かくないだろ」
「そんなことないよ。ファイアルが優しくしてくれると、すごく温かいもの」
「それは・・・・・・リフルの方だろ」
へ?と呟く姿すらまともに見れぬまま、思ったことを口にする。
「だから・・・気持ちとか、優しさとか・・・温かいのは・・・リフルの方だよ」
言って、ぎゅっと小さな手を握る。
俺には両親がいない。友達と呼べるのも昔はウォルだけだった。
だから嬉しかった。
初め、見ず知らずの自分の話をを信じてくれたこと。一緒に探険隊になってくれたこと。何気なく気遣ってくれること。全部、リフルの優しさだった。
そして俺は、いつもそれに助けられた。初めての温かさに。
だから、温かいのはリフルだと思った。
気持ちも、何もかも全部。
「ありがとう・・・」
小さな小さな声がポツリと響く。
そろりと様子を伺えば、リフルは俯いて体をもじもじさせていた。恥ずかしいのだろうか。
そのまま、気まずいようなそれでいてなんとなく心地好い空気が流れる。
破ったのは、きゅっと力を込めた小さな手のひらの感触だった。
「ねぇ・・・ファイアル」
「ん?」
「今日・・・このまま一緒に寝ちゃダメ、かな?」
「んなっ・・・!?」
いきなりの申し出に変な声を出せば「体、まだ冷えちゃってて・・・」と理由を並べたリフルが上目遣いで見つめてくる。
結局その夜は、小さな寝床に体を並べて眠ることになった。
リフルの小さな体がもそもそと動く。何故か腕枕をしてやってるので小さな頭が眼下で動くのがよく見えた。
触れ合っているところが、とても温かい。
知らなかった。
誰かの隣が、こんなにも温かいものであるなんて。
「お休み・・・」
「・・・お休みなさい、ファイアル」
そっと、小さな手が体の脇に添えられる。まるで母親が子供を寝かしつける時のように。
不思議だった。
たったそれだけなのに、ひどく安心する。
お休みなさい。
優しく温かい気持ちに包まれながら、ファイアルは静かに眠りに就いた。
+++
いちゃついてない。
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