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昼休みの回顧



昼休み。日当たりの良い甲板で、ガルバンゾ国の騎士アスベル・ラントは、座り込んだ状態から動けなくなっていた。
なぜなら・・・。




「・・・・・・すぅ」

膝の上に丸くなった体が一つ、乗っているからだ。
青と濃紫がグラデーションした不思議な色の髪。幼い言動と行動が目立つ少年―ロキが安らかな寝息を立てている。

ちょっと前にはここにソフィも一緒にいた。
ロキとソフィは仲が良い。言葉を交わさなくても、目で会話が出来る。格闘家同士、何か通じるものがあるのだろう、なんとも特殊な仲良しだ。
そんな二人が昼食後、じゃれあっていてアスベルはそれを見守っていた。
そこにシェリアがやって来て、何事か言ってソフィと共に船内に戻っていった。
当然、遊び相手を無くしたロキはアスベルの傍に寄ってくる。彼は寂しがりなのだ。
最初は言葉を交わしていたのだが、この陽気でロキがうとうとし出したので「少し寝たらどうだ?」と声をかけた。頷いた彼はそのままボスンッとアスベルの膝上に倒れ込み、二秒で熟睡。


三十分はたったがロキが起きる気配はない。気持ち良さそうにお昼寝を続けている。

そういえば、こうしてロキの昼寝にアスベルが付き合うのは初めてだった。
普段の彼はもう一人のディセンダー・フィスのくっつき虫である。見たことはないが、大概の場合、彼女の傍で寝息を立てているんだろう。
見かけたことのあるケースの大半は、スパーダに引きずられながら眠る姿である。それか、グラニデから誰かが遊びに来ている場合で、テュリの足の間に入っているもの。
なんにせよ、アスベルの近くで昼寝をするケースは今日が初。


なにとなしに頭を撫でてみた。少し癖のある髪の毛が日光で温かく、ふわふわしたものになっていて、手触りが良い。
もぞもぞと小さな体が身動ぎし、ロキの手がアスベルの服の裾を掴んだ。
その姿はまさしく幼い子どもそのもので、思わず笑みがこぼれる。と、同時に昔のことを思い出した。



小さい頃、屋敷の庭で駆け回り、戯れた記憶。
もう取り戻せない、弟との思い出。
彼もなかなか泣き虫な甘えん坊で、兄であるアスベルの背中については回り、よく遊んだ。

今では、殆ど絶縁状態である。自分が騎士になるため領地から離れたから一層。
彼はどんな風に育っているだろう?
いつか、会いたい。
その内会えるだろうか?
・・・いや、きっと会えるだろう。離れても兄弟なのだから。



「・・・・・・ぅ」

もそりと緩慢な動きでロキが起き上がった。くあと大きな欠伸を一つ。

「おはようロキ、よく眠れたか?」
「うぅ・・・・・・うん」

まだ覚めきらない頭でこくりと頷くロキ。そういえば、彼の髪の青色は弟とよく似ている。それで懐かしくなったのかもしれない。


「・・・?アしゅベりゅどうかしたの?」
「え?何がだ?」
「何だか・・・寂しそう・・・?」

大丈夫?と心配してくる瞳はどこまでも純粋だ。ロキは見かけによらず人をよく見ている。だから人の感情の動きに悟い。

「ああ、大丈夫だよ。ちょっと考え事をしてただけだ」

ぽんとロキの頭を叩いて笑みを作る。
同時に、船内からソフィが呼ぶ声が聞こえてくる。どうやらオヤツを作っていたらしい。

ロキがパタパタと足早に駆けていく。その背中を追いながら、アスベルは小さく微笑んだ。



今は会えない弟。
でもいつかは会える、そんな確信が胸にあった。
そうだ、いつか会った時にはこのギルドの話でも聞かせよう。
午後の日差しに包まれた甲板を背に、そう思った。





++++++
グレイセスの話をほぼ知らない状態で書きました。おかしかったらごめんなさい。
最初はただアスベルの膝でお昼寝するロキを見ながら、スパーダとお兄ちゃん談義させようと思ってたのに・・・いつの間にかこうなった。

最近やっとアスベルさんの魅力に気づきました。どうしよう、惚れる。

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