ライン

天仔ネタ2



「ぷはぁっ!ビックリしたぁ!!」
「・・・地盤が緩んでたんだね」

がらがらと音を立てながら、体を拘束する岩をどかす唯と狗縲。


「げぇーっ!服砂まみれじゃん!またヒナにどやされちまう・・・」




「それにしても・・・さっきのはボクの完敗だね・・・」

はぁと溜め息を吐いて狗縲が肩を落とす。
その様子に唯はにひひと笑みを浮かべた。

「へっへ〜ん。オレなかなか強いだろ!」
「うん・・・君は強いんだね・・・」

静かに認めると、狗縲は目を細めて唯を見つめた。
その様子の変化に唯がきょとんとして狗縲を見つめ返す。

「何?どうかしたのか?・・・もしかして、負けると思わなかったとか?」
「そうだね・・・ちょっと舐めてたかも」
「かーっ!!どいつもこいつも!オレがチビだからってバカにしやがって!見た目なんて強さに関係ないのにさ!
・・・とか、お前だって細いわりに力強かったしなぁ・・・オレも最初ビックリしたしなぁ・・・お互い様か」


「嬉しいね・・・強者に誉められるなんて」

「うぇ?」


急に声音を変えた狗縲に唯は目を丸くする。
見れば狗縲は何やら視線を斜め下に向けて。手を後ろに組んで。何故か体をもじもじさせている。

「・・・え〜っと・・・どうしたんだ本当に?何か変だぞ?」

「・・・おかしくもなるさ・・・タイプな上に・・・強くて・・・ボクは相当・・・」


ボソボソと呟く狗縲に唯は何とも言い難い感情を抱く。
いきなり変わって変だとか、可笑しいとかそんなんじゃなくて、嫌な予感というか・・・。


と、そんなことを考えていると急に狗縲が手を伸ばしてきた。
咄嗟に反応できず、あ、と目を見開いた瞬間。




視界が暗くなった。
いや、暗いんじゃない、黒が一面に広がったんだ。
しかも漆黒と言う訳じゃない、どこか柔らかい黒色。

あと、何故か温かい。
あと、何故か柔らかい。

どこから感じる感触だろう?顔のどこか、鼻?あ、違う、口だ。
口に温かくて、柔らかいものが・・・え?



そこまで認識して、唯は更に目を見開いた。

「・・・・・・〜〜〜〜〜っ!!?」

驚いたと同時にちゅく、という小さな音が耳を刺激する。


「〜〜っっ!わああああぁぁっ!!!!」


ドンッと勢いよく突き飛ばして唯は荒い息を吐く。
心臓がドクドクして、顔が死ぬほど熱い。熱い。


「・・・痛い」

突き飛ばされた狗縲がむくりと起き上がる。
唯は突き飛ばした形のまま口をぱくばくと動かした。


「なっ、なななななななななな・・・!」
「・・・どうしたんだ獣刃?」
「どうしたんだ?じゃない!!おおおお・・・お前今・・・」

「・・・・・・顔が真っ赤だよ獣刃」
「うっせいやい!てかオレが聞きたいのはそんなことじゃなくてだなぁ・・・!」

不意打ちと顔の熱の事で生まれた羞恥心を怒りに変え、唯は狗縲に掴みかかる。
当然狗縲はかわそうとする。それでも食いついて腕を伸ばす、が手は狗縲の胸元を掠めただけだった。そして、

「っ!?ひゃぁっ!!!」

何故か高い声をあげた狗縲に思いきり突き飛ばされた。
その勢いで唯は背後の岩に思いきり頭をぶつけ、その痛みに悶える。


「〜〜〜っ!てぇっ!何すんだよっ!!」
「そ・・・それはこっちの台詞だよ!い・・・いくら君でも、そんな・・・」

目尻にうっすら涙を浮かべながら唯は狗縲を恨めしげに睨む。

狗縲も唯を睨み返した。
何故か顔が赤いというオプション付きで。
何故か両腕で胸をかばいながら。



「・・・・・・・・・え?」


ごしごしと目を擦って、再度狗縲を見た。
赤い顔。睨む眼光。震える体。胸を覆う両腕・・・。


「・・・え、えぇっ!?!」

ある可能性に行き着いて唯は絶叫する。
胸元を掠めた唯の手。直後、突き飛ばした赤い顔の狗縲。
まさか、まさか。


「お前・・・て・・・・・・おん、な・・・?」

わなわなと震えながら問えばついと目を逸らされた。

絶句。

女。女だ。
失礼だけどぺったんこな体だからそうだと思い込んでいた。
細いのもそういう体質なんだと思った。

でも違う。

帰依狗縲は正真正銘の女の子だ。



「・・・あ、でもだとしたって・・・何であんな、あんな・・・」

不意打ちのことを問いかけておいて、その場面を思い出してしまい再び顔が熱くなる。
いや、まだ精神衛生上異性であった方が先の行動のショックが薄れるが・・・やはり不可解な問題だ。

すると、狗縲がまだ僅かに頬を染めながら真っ直ぐに唯を見てくる。
思わずこくりと生唾を飲んだ。


「何で・・・って聞かれたら・・・答えづらいけど、言う。
その・・・ボクは多分。相当、君に惹かれてしまったみたい・・・その・・・思わずキスがしたくなるくらい」


キス。


そしてカミングアウト。
彼―いや、彼女の答えに唯はただ呆然としてその場に立ち尽くした。


+++++
実はこんな二人を書きたいがために考えられた一行だったりする。
なのでメインは緋雅哭と唯に見せかけて唯と狗縲ちゃんなのです。
ちゃんですとも、ええ。

- 66 -


[*前] | [次#]
ページ:





戻る







ライン
メインに戻る