ライン

白黒モノクロ



※自己解釈、捏造多し




どこから来たの?

どんな姿をしているの?

誰も知らない。
そう、

僕が夢喰い白黒バク。



「お嬢さん、今晩は」

にこりと微笑んで、窓から星空を見ている少女に声をかける。
少女は僕の姿に驚き、身構えながら視線を上から下へ動かした。

黒と黄色に統一された燕尾服にシルクハット、手には変わった形のステッキ、まるで外国の紳士のような格好をした少年。まぁ普通なら「何だコイツは?」と思うだろう。

でも、僕にそんな常識は当てはまらないよ?


「こんな夜更けまで星を見て・・・眠れないのかい?」


顔をずいと近づける。なかなか整った顔をした愛らしい女の子だ。
そんな少女は近づいてきた僕に困ったような瞳を向けてくる。


「そんなに怯えないで、何もしないから。
ねぇ、眠れないの?」

「・・・・・・うん」


それでもおそるおそる僕の質問に肯定を示す少女。
ああ、なんて素直でいい子なんだろう。


「それなら僕にまかせなよ」


にっこりと微笑んでお決まりの台詞を放つ。

さぁ、これからは夢の時間。
眠れぬお嬢さんにこの僕が魔法をかけてあげましょう。

君が望む願いを―夢を僕が与えましょう。
君が望まぬ未来を―ユメを僕が食べてあげましょう。


「お嬢さん僕は君の味方さ。
さぁ、君は何をお望みかな?」

「・・・どんな夢でもいいの?」

「ああ、どんな夢でも僕が見せてあげるよ。」


「ならわたし、あなたとお話をしたいわ」

「・・・・・・お話?」


意外な答えに虚をつかれ少女を見つめる。
眼を輝かせながら嬉しそうに「うん!」と答える少女。

変わった子だ。

まぁ、それが望みなら拒みはしないけれど。


「それじゃあ・・・夢を見せる為の約束を」


にっこりと微笑んで少女に小指を差し出す。
少女は喜んで自分の小指を僕のものと絡めた。


さぁこれで契約は成された。

それではお嬢さん。月が満ちるまで束の間の夢物語を・・・この僕が見せてあげましょう。

少女は綺麗ににこりと笑い、夢へとおちた。




「今晩は、お嬢さん。また眠れないのかい?」

「うん」


昨晩と全く同じシチュエーションで話しかければ、少女がにこりと笑った。
どうやら完全に僕に心を許してくれたらしい。

僕もにこりと微笑んで愛用のステッキをくるりと回す。


「それじゃあお嬢さん。今宵も素敵な夢は如何かな?」

「また一緒にお話してくれるの?」


ぱぁと顔を輝かせる少女。期待に満ち溢れた表情に笑みがこぼれてしまう。

昨日と同じ望みとは。

なんて欲のない娘だろう。

・・・まぁ今後どうなるかは分からないけど。



「それじゃあまた約束をしよう。でも・・・今日は指切りでない別の方法で」


少女の小さな顎に手を当てる。
眼を閉じるように指示すれば少女は何の疑いもなしに瞳を閉じた。
ああ、何て穢れの無い純粋な子なんだろう。
僕は顎に添えた手で顔を上向かせながらその子に顔を近づける。



それでは キス で、約束しよう。






何日か過ぎた宵。今夜は満月。

さぁ月は満ちた。
ユメを与える僕の役目は終わり。


「今晩は、お嬢さん」


役目の終わりと夢のお代を少女に説明する。

お代は、今まで僕が君に見せた夢を全ていただくこと。

綺麗な少女の瞳から鮮やかな夢が全て消えていく。
この瞬間が僕は好きだ。
夢を失った相手の惨めな顔。
それを見られるこの瞬間。



なのに、今回は違った。

ユメを失った君は、すごく寂しい顔をした。

何故?ああ、理由は簡単だ。

僕が与えたユメは全て、僕と過ごした時間。
彼女はそれを惜しんでいる。

惨めな顔になるわけないじゃないか。
だって彼女が欲したのは欲望から来る優越感などではないのだから。
ただ話し相手を望んだだけの、無垢な少女。


それでも、僕はバクだから。
ユメは全部全部、回収しなければ。
でなければユメに囚われた人間は未来(夢)を紡ぐことができない。


だから、だから“僕というユメ”を全てもらっていく。

今までと同じように。


寂しい顔の君に微笑んで、残ったユメをもらうために手を伸ばす。


刹那、君は何かに勘づいたんだろう。

僕がユメをいただく直前に、君の腕が僕に伸ばされる。

君の小さな顔が僕に近づく。近づいて、あの日の約束のように、唇が――・・・・・・。





どこから来たの?
どんな姿をしているの?
誰も知らない。


誰も知るはずがない。
だって全て失うから。

だけど僕は全て覚えている。
見せたユメを、過ごしたユメを、全部。

変わった少女。

今宵も君は夢を見ているだろうね。

そして僕は今日も月の綺麗な夜の街を渡り歩く。


そうさ、眠れないお嬢さんに束の間の夢を与える僕こそが、


夢喰い白黒バク―――。


「今晩はお嬢さん。
モノクロの世界へようこそ!」





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