ライン

孤独



「琥珀、これをあげよう」

そう言ってしわくちゃの掌を差し出してきたばぁを、わたしはきょとんと見つめた。

「ばぁ、これなぁに?」
「昔ばぁのじじが遺してくれた物さ。『私と同じ目の色の子に』となぁ。」

小さな手に渡されたのはシンプルなペンダント。
細い糸に金の円盤が付いただけの簡素なソレを、幼いわたしは夢中で見つめた。

「ばぁすごい!キラキラ!」
「ほ、ほ、ほ・・・琥珀にはまだ大きいねぇ・・・でも、似合っているよ・・・じじも良いものを遺したねぇ・・・」

はしゃぎながらペンダントをつけたわたしはばぁの膝の上に乗る。この頃はばぁのそこに座って話を聞くのが好きだった。

「ばぁ、ばぁ、ほんとうにじじの目の色はわたしとおなじだったの?」
「そうとも。水晶のような真っ直ぐな目・・・お前はきっとじじみたいに素敵な人間に育つよ・・・」

しわくちゃな手が頭を撫でる感触が気持ちよくてわたしは笑った。



それから数年経って。ばぁが死んで。
いつの日からか形見のペンダントが首から外れなくなった。
じじの呪いのペンダントはその日からずっと一緒にある。




「やーい、やーい。いたんー!」

「ちがうもん!止めて!石を投げないで!」

それからお母さんも亡くなって、わたしは独り。
村の子達はわたしを“異端児”と呼んで、わたし自身や家に石を投げてくる。
味方は・・・いない。

「止めて!止めてったら!」

「うっわ!触られたぁ!汚れちゃったうわぁ〜!」
「ひゃっは!こっち来るなよおれまで汚れるだろう!」
「「あっははは」」



「・・・・・・っ!」

いつからこういう扱いを受けるようになったのかはよく覚えていない。
元々わたしは村の子達と距離があった。
それに、ばぁやお母さんが居るときは他の子と一緒に遊びたいという気もなかったのもあったのかもしれない。

とにかくわたしは独りだった。
その頃のわたしは無知だった。

だけど、わたしは独りで生きていかなければならないと暫くしてから気づけた。


覚悟さえ出来れば後は簡単だった。


“まずは面白半分に近づいてくる奴らをどうしようか?”
 近づいてこないようにしよう。
“じゃあ、近づかせないためにはどうする?”
 威嚇してやればいいんじゃないか。こっちの方が強いと見せつけてやればいい。




「やーい、やーい、いたんー!」

気持ちを切り替えてから聞くと実に不愉快な響きだ。

こんなちんけな奴に、もう怯えることはない。
こんな馬鹿みたいな奴に、もう怖がることはない。

「・・・誰が“異端”だって?」

騒ぎ立てる声がピタリと止んだ。
いつもと違う低い声に。いつもと違う鋭い眼差しに射抜かれて。

ホラ、奴らはこんなに、弱いじゃないか。



「ギャーギャーピーピー毎日よく飽きないよなぁ?それともアレかおつむが弱いから他に遊びを思いつけれないんだな?気の毒なこった」

「な・・・え・・・」

驚愕に見開かれた瞳を見ているとおかしな優越感に体が包まれる。
嗚呼、こんな奴らに見下されてたなんて・・・臆病者を通り越してただの馬鹿だ。

「なんだぁ?もしかして弱すぎる頭がとうとう言葉まで忘れちまったのか?本当に可哀想ですねぇ〜?不憫不憫」

「・・・んだと、この野郎!!」

罵倒を浴びされて頭に血が上ったらしい一人が殴りかかってくる。

嗚呼、なんだこれ。冷静に見てると信じられないくらい“動きが鈍い奴なんだな”。


振られた拳を軽々と避けそのまま相手の手首を思いっきり掴んでやった。
“すごく簡単に手首を捻ることができた”。


「――っ!ぐぎゃああぁぁっ!!」

品のない悲鳴をあげて腕を捻ってやった奴は喚きだす。
周りの奴らはその光景に怯え後退った。

それでも口ばっかり威勢のいい奴がコチラを指差して、口をパクパクさせながら震えた声を発する。


「そっ・・・そそそそ、そいつに触るな!異端野郎!けっ、汚れるじゃねぇか!」

「汚れるだぁ?そりゃこっちの台詞だ」

ぶん、と捻っていた腕ごと掴んでいた奴を群れの方に放り投げる。
そして腰に手を当てて奴らを見下すように睨み付けてやった。

「このクソ汚ねぇ餓鬼どもが!“俺”の家に近寄んな!次に今までと同じことをしてみろっ!てめぇら全員二度と立てねぇ体にしてやる!!」


そう言ってわたし―いや、俺は家に戻った。

次の日から奴らは現れなくなった。
誰一人、家に近づいてこなくなった。

そう、俺は本当に“独り”になった。





++++++
琥珀の一人称が「俺」になった経緯みたいなの。

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