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小小話




「フフフ、フフフーン♪フフフ、フフフーン♪」

明るい鼻歌が昼間の途にゆったりと響き渡った。
サクサクと柔らかな足音を立てて少し先をまるで弾むようにルキアが進む。
少年はそれに聴き入るようにしながら彼女に続いて歩いた。


「フンフンフン、フフフフ、フフフーン♪」

「・・・ねぇそれなんの歌?」


なにとなしに気になって問いかけるとピタリと旋律が止んでキラキラした眼差しのルキアがこちらに振り返る。
上機嫌オーラが滲み出て彼女元来の元気さに拍車をかけていた。


「あのね!この歌はクロニカが教えてくれた歌なんだ!
・・・題名は知らないけど。」

「へぇ、じゃあこの歌に詞はないの?」

「うーん、それもわかんない。でもボクはこの歌が大好きでね、ついつい口吟んじゃうんだ。」


さも嬉しそうに語り旋律が再び流れる。
明るくてテンポの良いそれがとてもルキアに似合っていてまるで歌に合わせて舞うように動く彼女を見つめて歌を聴いていた。


暫くして歌が終わる。

少し名残惜しそうに音を伸ばしながらルキアは一瞬寂しげな顔をした。
見間違いかな?と少年は数回瞬きをして彼女の横顔を見つめるが直ぐにいつもの笑顔がこちらに向けられた。



「・・・ねぇルキア?」

「ん?なぁーに?」

「僕にもその歌教えてよ。」

「へ?」


少年の申し出が意外だったのか目をぱちくりさせるルキア。
駄目?と首をかしげると彼女はすごい勢いで首を振った。

「ううん!そんなことないよ!それに二人で一緒に歌った方が楽しいもんね!」


明るくそう言ってルキアは歩く歩調を少年のそれと合わせた。

二人並んで歩きながら歌を口吟む。


楽しげな音色にルキアは少年に向かって向日葵のように明るい笑顔を浮かべた。



『世界を優しく包む、大きな笑顔を咲かせよう。』



名も無き“ハジマリ”の旋律が蒼く澄み渡ったソラに広がっていった。



―――――

「少年君、剣持たせて」
「危ないから駄目」


断れば途端顔を歪めるルキア。
彼女が思いつきで発言するなんてよくあることだけど、「剣を持たせろ」と言われて「はいドウゾ」なんて貸せる筈がない。

それに少年の剣は“復讐”の為の武器だ。
純粋なルキアにそんなもの・・・持たせたくはない。


「どうして駄目?」
「駄目」
「ケチんぼ」
「これだけは何があっても譲らないよ」
「・・・・・・」
「そんな顔したって駄目なものは駄目」


とうとうぷくぅと頬を膨らませてルキアはそっぽを向いてしまった。
どうしてそこまでこだわるのか気にはなるが、貸せないことに変わりはないので追及するのは止しておく。

・・・と今度はしんみりとした表情でルキアが上目遣いで見てきた。
諦めきれないのだろうか?


「少年君はさ、」
「うん?」
「何を守りたくて剣をとったの?」

その言葉に思わず目を丸くする。


「僕は・・・・・・」


口ごもってしまう。
というのも質問してくるルキアの瞳があまりにも真剣だったからだ。
ぞんざいな答えなど返せる筈がない。

出もしない答えを探して、悩んで、考えて・・・。


「・・・僕は故郷を奪われた両親の仇をとりたいだけだよ」

結局そんな風にしか返せなかった。
少女の瞳が哀しげに細められる。
嗚呼、そんな顔しないでよ。君には笑顔が似合うのに。


「ボクに君の手伝いが出来たらいいのに・・・」

ポツリと呟くような言葉に少年はルキアの両手をとる。


「そうしたら・・・きっと君はもっと心から笑ってくれるでしょう?」


優しい気持ちに少年は哀しげに微笑んで、ルキアの小さな手を少し強く握り締めた。




ソラのように美しい君をクロに染めたくはなくて。

僕は黒い剣を白鴉のように白い君から遠ざけた。






++++++
少ルキまじ白鴉。

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