JKに振り回されても鬼灯は冷徹 | ナノ


  濡れてる方が惚れている


「やっぱり雨が降ると冷え込むね」


夏が終わってもまとわりつくのが残暑の暑さ。
もともと温度の高い地獄ではこのまま秋なんて永遠に来ないんじゃないか。と疑ってしまうほどに暑かった。
が、しとしとと静かに降る雨は夏の終わりと秋の香りをつれて地獄の花街を包み込む。


「そうだねぇ、言って見ればあれだよね。超大規模な打ち水ってことだよね」
「俺知ってるよ!これ秋雨前線なんだってさ!お天気のお姉さんがいってた!」


湿気で広がる髪を心配するまいの隣でシロがその綿菓子のようなしっぽをぷんぷん振りながら答えた。
朝聞いたばかりの新しい情報を誰かに伝えたくてしょうがなかったようだ。
その愛くるしい姿にまいも思わず口角があがる。


「シロちゃん嬉しそうだよねぇ」
「うん!いつもと違うのってわくわくするよ!」
「やば、超ポジティブじゃん」


「そもそも基本的に地獄って曇ってるから雨雲なのかなんなのか分かんないんだよね、
分かってたら傘なりなんなり持ってきたのにさ〜」
「人や鬼は傘さすもんね」


普段からあまりニュースを見る習慣のないまいはあいにく傘を持ち合わせておらず
しかたなく茶屋の軒先で雨宿りを余儀なくされていた。


「まいちゃんこういうとき現世ではどうしてたの?」
「家出る前にママが傘持たせてくれてたかな〜、でもほんとにどうしようもなかったらコンビニでビニ傘買ったりとかできたんだけど」
「こん・・・?びにがさ?」


地獄ではあまり馴染みのない言葉にシロは首をかしげて頭からいくつもの「はてな」が飛ぶ。
その様子にまいは困ったように笑って


「ごめんごめん!わかんないよね」


とシロの頭をぽんぽんと撫でた。


「特にすることもないから急いで帰る必要ないんだけど、寒いよね」
「まいちゃん毛皮きてないもんね。俺は冬でもこのままだから今でも全然大丈夫だけど」
「そーだよーほんとシロちゃんうらやま。こんなとき王子様がサッと傘持って迎えにきてくれないかな〜的な」

「そうやってハードルを上げられると困るんですけどね」


耳にダイレクトに響くバリトンボイスに振り返ると唐傘をもった鬼灯が抑揚のない能面のような顔でたっていた。


「あ〜!鬼灯様!よかったねまいちゃん」
「シロさんこのわがままお嬢さんの付き添いどうもご苦労様でした。後は私がつれて変えるので結構ですよ」
「そう?じゃあ!まいちゃんまたね」


そういうと白いモコモコは秋雨の花街へ消えていった
まいは思いがけず鬼灯が迎えにきた事が嬉しくてしかたない様子で彼の鬼神のもとに駆け寄る


「来てくれたんだ〜ほ・・・
「全く、義務教育も終わった人間がどうしてニュースを見ないんですか。私の時代ではあなたも立派な大人なんですよ」


言い終わらぬうちに鬼灯の辛いコメントが降り掛かる。


「なによ〜そうやってすぐ昔の話出してくるんだから!おじいちゃんみたい!!」
「年齢的にはあなたよりずっと年上なので特に否定はしませんが、昼ドラとドラマの再放送以外にもテレビを有効に使いなさいといつも言っているでしょうが」
「うるっさいな〜、そもそも『黒縄地獄、晴れ』とか『等活地獄、曇りのち血の雨』とか言われても分かんないのよ!どこだっつーの」


鬼灯から目をそらしていじけたように吐き捨てた言葉に鬼灯のスイッチが入ってしまう。


「確かに来たばかりのあなたには分かりづらいかもしれませんがここで暮らしていく以上、周りになじむ努力をしなさい」


しまった、と思っても既に時遅し。鬼灯の顔をおそるおそる見上げると眉間に深く深くしわが刻まれている。
静かに降る雨は二人を包み込んでくれているがこの重い空気のなかでは恨めしくもある。


「あ!しまった。まいちゃんのかんざし預かったままだ!」


ほんの数刻前に二人と別れたシロがまいの付き添いで荷物を持たされていた事を思い出した。
赤い玉に緑の葉の飾りがゆらゆら揺れる美しいかんざしだ。
元来た道を引き返してようやく傘をさす二人の姿を見つけたシロが駆け寄ろうとすると


「おやめ、また後で渡しておやりよ」


どこから出てきたのか何時から見ていたのか、妲己がシロを静止する。


「でも、、、これまいちゃんが『鬼灯の背中の模様ににてない?これ運命じゃん』って嬉しそうに持ってたから」
「ふふふ、そうなの?あのお嬢さんも可愛らしいじゃないの。あの鬼灯様に悪態ついて無鉄砲な小娘かと思ったわ。さっきここを通ったときも鬼灯様にしかられながら通っていったよ」
「またしかられたんだ。」


シロは遠目に見える二つの影を見ながら哀れみを込めて「クゥン」と鳴いた。
しかしある違和感に気づく。


「なんかあの傘傾いてない?まいちゃん寄りに」


妲己もすこし微笑んで


「あら、ほんと。鬼灯様も素直じゃないわねぇ。下界の広告のキャッチフレーズで聞いたことがあるけれど
『濡れてる方が惚れている』。よく言ったものね」


鬼灯の傘は十分な大きさで二人はいる事も分けなさそうだがまいの側に不自然に傾けられ冷たい雨粒は彼女の体に触れる事はできない。
シロはよく分からないと言ったように首を傾げているが妲己はそんな素振りすら見せないような鬼神の不器用な優しさとそれに気づかない愚かで幸せな女の陰を見た事もないような優しい目で見つめていた。




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