話は全く違うけど,
これと設定が同じ.
「おい降矢,邪魔なんだが」
「すいません」
横柄な彼女は,僕と同じクラスのシェリアさん.
綺麗な見た目と裏腹に,口が悪いと評判です.
でも,実際彼女は口が悪いんじゃなくてキツイだけなんですよ.
「ごめんな,気を悪くしないでくれ」
「大丈夫ですよ」
「ありがとう」
僕が彼女を擁護する理由はひとつ.
思いを寄せているからですよ.
「最近,図書館にあまり来ませんね?」
「あー…そういえばそうだな」
「前に読みたがっていた本が入ってますよ」
「ん,じゃあ近々行こう」
「えぇ,お待ちしてます」
彼女は結構図書館に来てくれるので,仲がいいんです.
そうじゃなきゃ,僕だって周りと同じように陰口叩いてたかもしれませんね.
でも,口が立つだけあって頭もいいんですよ.
放課後,シェリアさんが図書館に来ました.
ちょうど凰壮くんの相手をしていたので,気付かなかったんです.
「…降矢」
「あ,シェリアさん.すいません,凰壮くん席を外しますね」
「おー…」
凰壮くんは,窓際の天使に夢中でした.
毎日ここに来て眺めているんですよ.
いい加減勇気を出せばいいのに,困った人です.
「新刊,期限短いのか?」
「そうですね,最大1週間です」
「読みきれる気がしない」
「また延長しに来たらいいですよ」
「ふーん…」
「でも,特別ですからね?ホントは駄目なんですけど」
「いいのか?」
「内緒ですよ」
「ん,ありがとう」
僕が出来ることはこのくらいですから.
シェリアさんだから目を瞑るんですよ?
なんて,ちょっとクサイですかね.
「お前の弟,毎日ここにいるのか?」
「そうなんですよ.毎日ああして,窓際の天使ちゃんを見てるらしいんです」
「…飽きないもんだな」
「まったくです」
「あ,書くものがない.借りていいか?」
「どうぞ」
シェリアさんに,ボールペンを貸して,記入してもらいました.
癖のある文字に,ついつい目が行ってしまいますね.
返すときに指が軽く触れて,ドキッとしてしまいました.
「ペン,ありがとう」
「いえいえ.今日はもう帰るんですか?」
「…別段用事なんてないしな,そのつもり」
「なら,もう少し居ません?良かったら一緒に帰りましょうよ」
「それは構わないが…わかった.じゃあ荷物取ってくる」
「はい」
よっしゃー!!!という思いで叫び出しそうになったのを堪えました.
一緒に帰られるなんて,なかなかないので.
この時点で凰壮くんとは一緒に帰れませんね!!
シェリアさんと二人で下校…!!!!
「シェリアさんは,読書以外に何か好きなこととかあります?」
「ない」
「じゃあ,趣味は読書?」
「あぁ」
「おススメの本とかあります?」
「小説が好きなら●●●●という作者の書いた本が面白い.言葉こそ難しいが,結構展開の読めないサスペンスが多くて,降矢くらい本を読む奴なら楽しめると思う.エッセイなら■■■という人の本が印象に残ってるな.なんとも捕らえ難い視点と的確な物言いには,読んでてすっきりする」
「へぇ」
「まぁ…私の主観だからな,おススメと言えるのかどうかはわからない」
「じゃあ今度読んでみますよ.それで感想を伝えます」
「別に伝えてくれなくてもいいんだが…まぁ,そこそこ楽しみに待ってるよ」
いらない,と完璧に断らないところにシェリアさんらしい優しさが見えます.
興味のないことには無頓着なのに,好きな事となったら熱くなる.
まるで誰かを彷彿とさせるような感じですよね.
「降矢のおススメは?」
「僕は▲▲▲▲というのなんですけど,今年のベストセラーになった本です」
「書店で見かけたことがあるな…内容は?」
「ミステリーなんですけど,本の薄さの割りに内容がめちゃくちゃ濃いんですよ.リアリティのある世界観は,惹きつけられます」
「…今度見てみる」
「感想,待ってますから」
「読むとは言ってない」
「そう言っていつも読んでくれるじゃないですか,僕のおススメ」
「お前のおススメは,表紙をめくってみても,ハズレがないからな」
実はこうやって本を紹介するのは初めてじゃないんですよね.
感想というか意見を交換することは結構あるんです.
シェリアさんの自由奔放さが,僕は好きなんですよ.
まるで,虎太くんのような…そう,虎太くんのような,あれ?
「私,こっちだから」
「あ,はい.じゃあまた明日」
「うん」
あ,今気付きましたよ.
彼女,虎太くんに似てるんですよ!
そっけない態度を取るくせに実はものすごく想ってくれてたり,好きなものになると目を輝かせて語ったり,嫌いなものはとことん嫌いだったり.
納得です.
―好きになった人が,兄に似ていました―
「凰壮くん聞いてくれます?僕,虎太くんに似た女子が好きなんです」
「はぁ!?」
「ものすごく無愛想な癖に,自分の好きな事になると本気出して,感情がすぐ顔に出ちゃったり,さり気なく優しさを見せたり…」
「(そんな女版虎太みたいなやつが本当に存在するのか…?)」
「凰壮くんで言う天使ちゃんみたいな感じです」
「お,おぉ…(言えねぇ!口が裂けても天使ちゃんが竜持に似てるとか言えねぇ!!)」
血は血.
「上手くいくといいな…(変なとこまでシンクロしてんなよな…!これで虎太が俺似の奴好きになったら笑えねぇ)」