いつからだろうか.
竜持くんは,変わってしまった.
仲のいい友達だったのに.
「…シェリアさん」
「何?」
「良かったら,一緒に帰りませんか?」
「ごめんなさい,今日は先約があるから」
もう覚えてないけど,始まりはささいなことだったのかもしれない.
気が付けばエスカレートする,彼の奇行.
「シェリアさん」
「…なんでいるの」
「シェリアさん」
「やめてよ,ホント…」
「シェリアさん」
「もう来ないで!」
私が何をしたっていうんだ,これじゃあまるでストーカー.
恐怖に狩り立てられる日々だった.
用もないのに追いまわされたり,勝手に待ち伏せされてたり.
突然,わけのわからない贈り物をされるようになった.
「ねぇ,どうして避けるんですか?」
「近寄らないで」
「気に入りませんでした?」
「知らないっ」
「おかしいなぁ…シェリアさんが,好きなブランドって前に聞いたのに」
「っ,いい加減にして」
一体誰が教えたんだろう,どうして彼が知ってるんだろう.
目に見えるものが怖くなって,私は鏡が見れなくなった.
自分の視線でさえも,目を合わせたくない.
「…!」
「そのストラップ,可愛いですね.付けてくれてるんだ?」
「は?勝手に見ないでよ!」
「ほら,僕とお揃いですよ?」
「いや…」
思わず,ストラップを外して投げつける.
確かにお気に入りのストラップだったそれは,一瞬にして汚らわしいものに変わってしまった.
なんで彼がそこまで知ってるのかわからない…私は,誰にも言ってないのに!
「…もしもし」
『こんにちは』
「なっ…!?」
聞き覚えのある声,電話を切って壁に投げつける.
連絡先を教えた覚えなんてない.
知っている誰かが教えたにしても,悪質すぎる….
「ねぇ,本当にもういい加減にしてよ!」
「…何をですか?」
「付き纏うのをやめて!物も贈らないで!私に二度と近づかないでよ!」
「どうして?」
「気持ち悪い,嫌がってるんだから…こういうのやめてよね!!」
ついに,我慢の限界がきていた私は,本人に伝えた.
方法は,怒鳴るという最悪の伝え方をしてしまった.
彼は,驚く事もなく私を見ている.
「いい加減にするのは,貴女の方ですよ」
「な,に言ってるの」
「貴女が,僕を思い出してくれないから!僕は,必死に頑張ってるのに」
「は…?意味,わかんない」
「半年前,恋人の僕の前で交通事故に遭って,僕のことを全部忘れて…それなのに…」
「知らない…私,竜持くんと恋人なんかじゃない!やめて!」
「ずっと一緒だって,言ったじゃないですか.なのに…」
「そんなの知らないよ!確かに,私は事故に遭ったよ!でも本当に知らないの」
そんなの,信じられるわけがなかった.
覚えてない,本当に見に覚えがない.
「酷いのは,シェリアさんの方です」
「もうやめて…聞きたくない」
「裏切ったのは,貴女ですよ!こんなに想ってるのに」
「来ないでよ」
「…僕を覚えてないシェリアさんなんて,この世にいなくていいんです」
「ちょ,っと…」
竜持くんは,私の首に手を当てて力を込めた.
詰まる息に,苦しむ右手が彼の手に添う.
「貴女はシェリアさんに似た違う人なんです,シェリアさんの偽者です」
「な,に言って…ぁ,やめ…」
「あの日事故に遭ったシェリアさんは死んでしまった.もう,この世にシェリアさんはいないんです,そうですよね?」
「…く,るし…よ,しん…じゃぅ…」
必死に抵抗したが,彼の手に力がこもっていくばかりだ.
意識も,薄れていく.
「 」
「…っ,やぁ…」
最後に見えたのは,泣いている竜持くん.
悲しそうに,嬉しそうに,涙を流した悪魔を.
なんて悲しそうな顔をしてるんだろう…だけど,私には永遠にその涙の意味がわからないままだ.
(※竜持くんが報われない裏話==
コチラ==から)