竜持03 アナザー


あの日からです.

シェリアさんが変わってしまったのは.

仲のいい恋人同士だったのに.



「…シェリアさん」

「何?」

「良かったら,一緒に帰りませんか?」

「ごめんなさい,今日は先約があるから」



もう覚えてないけど,始まりはささいなことだったのかもしれない.

それはある日のこと,彼女は事故に遭って記憶を一部失ったのです.

その日から,彼女は僕とのことを全く覚えていないと言います.



「シェリアさん」

「…なんでいるの」

「シェリアさん」

「やめてよ,ホント…」

「シェリアさん」

「もう来ないで!」



どうして思い出してくれないんでしょう?

名前を呼んでも笑い掛けてもらうことさえ出来ず,とても辛い日々でした.

いつものようにしているだけで避けられたり,嫌われたり.

思い出の品も見せても,彼女は思い出してくれません.



「ねぇ,どうして避けるんですか?」

「近寄らないで」

「気に入りませんでした?」

「知らないっ」

「おかしいなぁ…シェリアさんが,好きなブランドって前に聞いたのに」

「っ,いい加減にして」



贈り物をしたかった僕に,デート中に教えてくれた,好みのブランド.

見せれば思い出すかもしれないと思って贈った例のブランドの手鏡.

だけど,鏡を見ても彼女は何も変わらないまま.



「…!」

「そのストラップ,可愛いですね.付けてくれてるんだ?」

「は?勝手に見ないでよ!」

「ほら,僕とお揃いですよ?」

「いや…」



目の前で,お揃いのストラップを投げつけられました.

一緒にお揃いにしようと買ったストラップ,こんな風にあっさり捨てられるなんて.

他の人には内緒だよ,と僕は表に出さずに大切にして持っていたのに.



「…もしもし」

『こんにちは』

「なっ…!?」



電話をすれば,いきなり切られて.

変わっていないであろう,彼女の連絡先にかければ繋がったんです.

どうして,こんなにしてもまだ思い出してくれないんでしょうか?



「ねぇ,本当にもういい加減にしてよ!」

「…何をですか?」

「付き纏うのをやめて!物も贈らないで!私に二度と近づかないでよ!」

「どうして?」

「気持ち悪い,嫌がってるんだから…こういうのやめてよね!!」



シェリアさんは,僕のことを思い出してはくれないまま.

怒った声に,僕はとても悲しくなりました.

もう,無理なのでしょうか…彼女はどうやったら僕を思い出してくれますか?






「いい加減にするのは,貴女の方ですよ」






「な,に言ってるの」

「貴女が,僕を思い出してくれないから!僕は,必死に頑張ってるのに」

「は…?意味,わかんない」

「半年前,恋人の僕の前で交通事故に遭って,僕のことを全部忘れて…それなのに…」

「知らない…私,竜持くんと恋人なんかじゃない!やめて!」

「ずっと一緒だって,言ったじゃないですか.なのに…」

「そんなの知らないよ!確かに,私は事故に遭ったよ!でも本当に知らないの」



真実を伝えても,彼女は思い出さないまま,僕を拒みました.

分かってくれない,信じてくれない.



「酷いのは,シェリアさんの方です」

「もうやめて…聞きたくない」

「裏切ったのは,貴女ですよ!こんなに想ってるのに」

「来ないでよ」

「…僕を覚えてないシェリアさんなんて,この世にいなくていいんです」

「ちょ,っと…」



シェリアさんの首に手を伸ばし,ゆっくりと力を入れました.

僕の手に,シェリアさんの手が重ねられて,少しだけ口元が緩みます.



「貴女はシェリアさんに似た違う人なんです,シェリアさんの偽者です」

「な,に言って…ぁ,やめ…」

「あの日事故に遭ったシェリアさんは死んでしまった.もう,この世にシェリアさんはいないんです,そうですよね?」

「…く,るし…よ,しん…じゃぅ…」

彼女が抵抗するほど,僕は悲しくなって,どんどん力が入っていくのです.

そこにいた僕は,正気でいられませんでした.



「さようなら,僕の愛した人」

「…っ,やぁ…」



僕は,力なく崩れ落ちるシェリアさんの最後を見たんです.

恐怖と,苦しみを抱いて死んでいく天使を.



ねぇ,教えてくださいよ.あなたなら,壊れたメモリーカードをどうしますか?



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