05 トリップガール


結局。
あの後、もう一度案内をしてもらえるはずだったのだが…。

腹部の痛みが限界を超えた。

少し無理をし過ぎたのだと思う。
あっという間に目の前がブラックアウト。
目が覚めれば船医室で、船医さんには怒られてしまった。

船内の案内は日を改めてということで…。
今度はヒートさんや他の船員さん達が、私の部屋を作ってくれることになった。
(なんでも船医さんの指示らしい。)

小さな物置を少しばかり改造した、小さな部屋。
簡易のベッドと小さなテーブルや椅子があるだけの簡素な部屋。

ここが、この世界での、私の部屋。










05 トリップガール










フッと深く、暗いところから意識が浮上する。
ゆっくりと眼を開けば…そこには、まだ慣れない天井が見えた。

…ため息を一つ。


「……夢じゃない…よね…。」


夢ならよかったのに…。
と、起きる度に思う。

この部屋で、もう4回目の朝を迎えていた。

あれから、「お頭」さんには会っていない。
遠くで歩いている姿を見かけることくらいはあるのだが…会って話をするようなことはなかった。
私がこの部屋と船医室しか行き来していないのが主な原因なのだが…。
(正直、会いたくない気持ちの方が大きかったから、助かった。)

それから、私の腹部の怪我だけど…思ったよりも酷かったらしい。
ようやく痣が少しマシになってきたかのように思う。
「痛みがマシになるまでは、仕事禁止」
と船医さんに言われていたのだが…

仕事と言っても…そもそも、私はこの船で何をすれば良いのかわからないのですが…。


「……かえりたい…。」


小さな部屋の中。
ポツリと呟いた声は思ったよりも響いた。


「…かえりたい、なぁ……。」


じわり、と浮かんだ涙を慌ててふき取る。

あれから毎日、私は「私が出てきた場所」を何度も何度も訪れてみた。

けれど結果は同じ。
何度そこへ足を運んでも……なにも、おこらなかった。
ごしごしと目をこすり、キュッと口を結ぶ。

……泣いていたって状況が変わるわけじゃない。

なら頑張ろう。
頑張って、生きる努力をしよう!

そう言い聞かせるように、軽く両頬を叩いた。
うん、気合だ気合!


「…頑張れ、私…!」


ファイト、オー!
なんて、小さく呟いた瞬間だった。


「名前ー、起きてる?」
「ひゃい!?」
「あ、起きてた。船医から許可もらったから、もう一回船の案内しようかと思うんだけど…。」


大丈夫?と声を掛けられる。
この声は、この四日間で随分と聞き慣れてしまった声で…。
何かと、私の世話を焼いてくれている人。

慌ててガチャリ、と扉を開ければその向こうにいたのは口の裂けた男の人が居て…。


「ヒートさん、おはようございます…!」
「うん、おはよー。大丈夫そう?」
「は、はい!」
「じゃあ、行こうか。」


ニコリ、と浮かんだ笑みは人懐っこいモノで。
見た目よりも、人当たりが良いヒートさんは、この世界のことを色々教えてくれた。

大海賊時代の幕開け、ゴールド・ロジャーの話。
グランドラインと言う海の話。
故郷のサウスブルーの話。
“ワンピース”の話。
色々聞かせてくれたのだが…正直半分も理解できていないと思う。
(何、悪魔の実って。何、海獣って。)


「腹の具合は?良くなったか?」
「は、はい…。おかけさま、で…。」
「そっか。でも無理はしちゃダメだからな。船医に殺される。」
「ころ…っ。」
「あはは、冗談だって!」


ケタケタと笑うヒートさん。















…ねぇ、今は遠い私の家族。
元気ですか?
私は…正直、元気とは言えません。
不安でいっぱいで、今にも泣きそうです。
でも…。

でも、なんとか、頑張ります。





05 END


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