香り




陽菜からは、いろんな匂いがする。


「小平太君、おはよう。」
「あぁ!おはよう!」


微笑むように笑んだ陽菜の手には、洗濯されたであろう布巾や手拭。
真っ青な空に陽菜の笑顔が花のように咲いた。


「洗濯か!」
「うん、良い天気だったから。」
「上は届かないだろう?私がやる!」
「あ…。ありがとう。」


陽菜の手から洗濯物を受け取る。
その時香ったのは……日向の香り。
太陽の温かな香り。


「今日は天気が良いからな!良く乾くだろう!」
「だねー。」


白くはためく手拭を見て笑った。










香り










「陽菜!」
「小平太君、お疲れ様。」


午後の授業の後…軽く泥を落とし食堂へと向かう。
正確には食堂の台所の勝手口だ。

探すまでもなく、そこに居たのは陽菜で。

私の姿を見つけると、ふわりと笑う。
その瞬間がたまらなく好きだ。


「休み時間、かな?」
「あぁ!次は自習だからな、裏山へ行ってくる!」
「ふふ…。夕ご飯に間に合うように気を付けてね。」
「……。」


そのとき、陽菜から香ってきたのは、潮の匂い。


「…今日は魚か?」
「えっ?…よくわかったね、小平太君。」
「陽菜から魚の匂いがするからな!」


感心したように「すごいなぁ」と眼を見開く陽菜に笑う。
忍を目指すものなら匂いに敏感でなければならない。

まぁ、私の嗅覚は犬並みだと仙蔵に言われたがな。


「今日は新鮮なお魚をたくさん頂いたの。夕ご飯はA定食が秋刀魚の塩焼きで、B定食が鯖の味噌煮だよ。」


陽菜が笑う。

嗚呼、夕餉が楽しみだ。



・・・ ・・・



また、別の日。


香ってきた甘い匂い。

それを辿っていけば…陽菜がいた。
下級生を前にニコニコと笑うその手には…美味そうに焼けたボーロ。


「お姉さんありがとうございます!」
「どういたしまして!ちゃんとみんなで仲良くわけてね?」
「はーい!」


嬉しそうにそれを受け取った下級生は教室へと駆けていく。

嗚呼、この甘い匂いは陽菜がボーロを焼いた匂いだったのか…?


「陽菜!」
「わっ!こ、小平太君!今日は実習じゃなかったの?」
「予定だった城の雲行きが怪しくなってな、中止だ!」
「そうなんだ…。」


突然現れた私に驚いたようにポカンとした陽菜。

あぁ、やはり陽菜から甘い匂いがする。


「ところで、さっきのは何だ?」
「ボーロを焼いたから、一年生のみんなにお裾分けしたんだよ。」
「…私の分は?」
「実習だと思ってたから……。」


ごめんね、と苦笑する陽菜に…笑って見せる。
無いとわかっていてワザと聞いたんだ、怒る筈もない。
そう思いながら陽菜へと近づけば……

また、あの甘い匂い。


「……?」


ボーロは下級生が持って行った。
なのに…そこにあるかのように、強く香る甘い匂い。


……

いや、そもそもこれは…ボーロの匂いじゃない…?


「小平太君?」
「……。」


陽菜が動く。
ふわり、と香りが濃くなる。

心配そうな陽菜の目が見えた瞬間、理解した


嗚呼、これは……


「…陽菜。」
「どうしたの?」
「陽菜は甘い匂いがするな!」
「甘い?…あ、さっきボーロ焼いてたから…。」
「違う。」


腕をつかむ。
キョトンと首を傾げる陽菜。

嗚呼……


「陽菜自身から、甘い匂いがする。」


この香りに酔ってしまいそうだ。


「え、そうかな?」
「あぁ、美味そうだぞ!」
「こ、小平太君!?」


ずいっと、陽菜の首元へすり寄る。
甘い匂い。

フと、伊作が言っていたことを思い出した。


「相性…。」
「えっ…?」
「相性が良ければ、良い匂いがするらしい。」
「あ、あいしょう…?」
「私は陽菜の匂いは好きだぞ!」


手を離し、ニカリと笑う。
油断すれば抱きつぶしてしまいそうで、一歩後ろへ下がった。

訳が分からず唖然としている表情が面白い。


「じゃあ今度は私にもボーロを焼いてくれ!」
「え、あ、う、うん!」
「なはは!楽しみだ!」


そう言い残して、その場から去る。
屋根を伝い、塀を飛び越え…裏山へ。

あー……


「良過ぎて、駄目だな!」


あれは雄を惑わす匂いだ















(あれ?陽菜さんそんなところでどうしたんですか?)
(ぜ、善法寺君…。な、なんか小平太君が変で…。)
(小平太が?)
(わ、わからないけど、良い匂いだとか何だとか…。)
(匂い?)
(相性がどうとか…首元嗅がれて良い匂いだって…。)
(……小平太が陽菜さんにですか?)
(う、うん…。)
(……よく無事でしたね。)
(え?えっ?)



END


―――――

相性が良ければ、良い匂いがするという話を思い出しました。

本当かどうかは知りませんが(笑)
逆に相性がよければ相手の匂いが気にならない、というのもあるそうですね。
どっちが本当なんでしょう?

陽菜さんのフェロモンを小平太が敏感に嗅ぎ取ってれば良i…げふんごほん。
お粗末様でした。

―――――
2014/11/20


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