世界中が深い闇に還ろうとする中、ぼくの真っ白な服と息はくっきりと存在を示す。いつもなら兄さんと二人で晩ごはんを何にするか考えて帰るんだけど、今日は残業があるらしく先に帰ってくださいと言われた。何か手伝えることはないかと尋ねたけど、ノボリの手元を見たら数字と文字の大行進。むつかしいこと、分からない。苦笑いをしてお互いに無言の頷き。お仕事の量は減らせないけど、せめての休息としてコーヒーを手渡し帰路につく。
 きのうは制服のコートを脱ぎ、外でまったり過ごせるほどの暖かさだった。新たな命が顔を出すころとワクワクしたのも束の間。ぼく達の瞳みたいな雲が太陽をすっぽり覆い隠し、風も刃物のように鋭い。ぼくのとびきりスマイルでご対面する予定も取り止めである。息を吸い込むとツーンとした痛みに目元が潤む。
 ノボリがほっとする空間を作ろうと駆け足を始めた瞬間、たまたま握りしめていたライブキャスターが震えた。画面にはぼくの友人が嬉しそうに手を振っているではないか。

「あれ? どうしたの」
「やっほー。あのね、木の実をたくさん拾ってお菓子を作ったんだけど、ひとりじゃ食べきれないからさ。良かったら……貰ってくれない?」

 画面越しでもおいしいと言いたくなるその姿に、口内は唾液の噴水化とし何億もの星を瞳にちりばめる。「わあああ! 美味しそう!」舌なめずりをしながらすぐ行くねとライブキャスターの通話を切り、ぼくは走り出してしまう。もちろん、兄さんの為に。目も肩も酷使してクタクタなのに出勤時間は明日と変わらない。だから、あまい物を食べて一息ついてほしい。
 走りながら考える。そう言えば、彼女と2人きりで会うなんて久しぶり。会うときは3人机を囲んで、兄さんの作ったビーフシチューを食べたりするんだもん。しかし、よくよく考えてみると、兄さんと彼女はよくショッピングしたり外食したり、オトナな話をしているような気がしないでもない……。ぼくは彼女と2人きりになるのが嫌ってわけじゃないし、苦手意識を持ってるわけでもないんだけど、なんだろう。たぶん、ぼくも彼女も、2人きり「に」なりたくないんだ。

 変なことを考えてたらあっという間に着いちゃって、ちょっと彼女と顔を合わせるのが気まずい。インターホンを押すと、光の道筋が黒に切り込みを入れる。

「あ、いらっしゃい。寒かったでしょ?」
「走ってたら体あったかくなった!」
「お鼻真っ赤〜。えっとね……はい、これ。きちんとノボリの分を入ってるから、安心して」
「ありがとう! 兄さんの分も貰って帰るつもりだったから、嬉しい!」

 それから少しだけ雑談をしていると、彼女は兄さんが残業だということを知っていた。どうして知っているかはあえてつっこまなかったけど、帰ったら一緒にお茶するねと早々にお別れをした。嫌い……じゃないんだけどなぁ〜、嫌いじゃないんだけど。兄さんと三人でいる時は本当に楽しくて、この空間が一生続けばいいのにと思うくらいなのに、ふしぎだよね。彼女から手渡された紙袋から、お菓子を一つ摘んで、食べた。








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