邂逅
私は息をするのを忘れて少女を見つめていた

「この子が…紫音ミス…?」

アンドロイドだと聞いていたので、もっとメカメカしい物が届くものだと思い込んでいた。

……思ったよりは可愛いかな…とりあえず返品は無しにしとこう。

…どうやって起動するのだろう?
とりあえず、取り扱い説明書を…あった

ペラ、と一枚目を開いたページに驚きの言葉が書かれていた。

『本製品は失敗作となっております故、万が一故障なさっても当社は一切責任を負いません。また、ご返品も不可能で御座いますので、ご了承ください。』

…はぁ?
「ちょっと!どーゆーこと!?はぁ!?っざけんな!」
ああ、こんな大声出したらまたお隣さんに怒られる…
それにこんな汚い言葉遣い親が聴いたらなんて言うか…
…っじゃなくて!
失敗作ってどういうことだよ!?
失敗作良いように押し付けられたってこと?あぁもう…最悪!
ミクとかにしときゃよかった…失敗作とか最低…歌えるの…?
…愚痴を言ってても仕方ないよね…起動しよう。

あたしは説明書に書いてあった通りにして起動する。
初めて起動したとき、一番最初に見た人をマスターだと認識するらしい。
小鳥かっつーの

機械音が耳に響く。ちゃんと起動するのかすら不安だ…
暫くすると、その少女…紫音ミスがゆっくり目を開いた
よかった…ちゃんと起動したみたいだ
紫音ミスが体を起こし、周りを見渡す…と、目があった
「……貴女が…僕の…マスター…?」
イメージとは違う、か細くてどこか不安そうな声で紫音ミスは呟く
「…そ。私が、あんたのマスター…ってやつ。…よろしく」
ぶっきらぼうに私が言葉を投げると、紫音ミスはぎこちなく微笑み
宜しくお願いします…
と囁いた


「…でさ、あんた、失敗作なの?」
あたしが話しかけるとミスはびく、とひどく怯えたように肩を震わせた
口を開いては閉じ、また開いては閉じを繰り返していたミスは、やがて何か決意したように唇をきちんと開かせ声を発した
「…はい。僕は…失敗作、です…」
泣きそうな声。ロボットなのにこんな声が出せるの?
あたしが言葉を発しようとするとそれを遮るようにミスが言った
「僕は…僕は確かに…失敗作です…!…でも、こんな僕にも…貴女は…歌を、くれますか…?」

この子は、本当に…アンドロイドか?
アンドロイドが、こんな必死な、泣きそうな顔を、出来るものなの?

あたしは、不思議に思うことしか出来なかった。


「とりあえずさ、この曲歌ってみてよ。」
落ち着きを取り戻したミスにあたしは楽譜を渡してみる
それはボーカロイドが来たら渡そうと思って作った曲
それを受け取ったミスはしばらく唖然としていたが、やがて我に返ったようにこちらを向き、勢いよく
「は、はい!」
と返事をした
嬉しそうに楽譜を見つめるミスを見ていたら、なんだかあたしまで嬉しくなってきたような、そんな気がする。
しかし嬉しそうに楽譜を見つめていたのもつかの間、何かに気付いたように目を見開き、そしてまた泣きそうな顔をしだした
「ど、どうしたの?そんなに難しい曲だった…?」
難しい曲を作った覚えはないんだけどなぁ…?
あたしが考えていると、やがてミスはまた泣きそうな声で
「いえ…そうでは、ないんですが… すいません、この曲は… 僕には歌えません…!」
と、肩を震わせながら言った。



「失敗作」という忘れかけていた言葉が頭の中に浮かぶと同時に、やっぱり人間なんじゃないだろうかと思っていた。
それほどひどく辛そうな顔をしていた。
*<<
TOP
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -