05

キィ、と金属の軋む音をぼんやりと聞きながら、少女は小さくブランコを漕いだ。

最近は毎日顔を見せてくれていた青峰が、昨日は来なかった。今日も、姿が見えない。どうしたのだろうかと足元を見るともなしに見ながら考える。


(部活、行ってるのかな)


今までも、ふらっと部活に出て公園に来ない日があった。元々青峰の放課後の時間をすべて奪うつもりは少女にはなく、部活に出ることは良いことだと心から思っている。


(だけど……ひとりでいることより、彼がいないことのほうが寂しい気がする……)


ふう、と小さく溜息をもらした少女はブランコから降り、公園の入り口へと向かう。コの字型の柵に腰を下ろし、桐皇学園のあるほうを見つめた。


『部活、か……』


1年前まで、少女も部活動に励んでいた。写真部に所属していた少女は、毎日愛用の一眼レフカメラを持って運動部や文化部、委員会の活動風景や生徒の日常風景を撮影していた。その写真は部室前に張り出し、希望者には格安で販売していたのだが、これがまた評判が良かったために写真を張り出した日の昼休みはたくさんの生徒で賑わっていたほどだ。


『懐かしいわね…』


そっと自分の手のひらを見る。あの頃は毎日感じていたカメラの心地よい重み。それが今は、諸事情でカメラに触れることも出来ずにいる。

懐かしさと同時に、悔しさが募る。

撮りたくても撮れない。そんな状況に陥れた相手に怒りも感じるが、それをぶつけることも出来ず、ただ悔しさだけが膨らんでいく。


(もしも今、カメラがあって、写真が撮れるなら……)


暗くなっていく気持ちを切り替えようと、少女は茜色の空を見上げながら、自分が今撮りたいものは何だろうと頭に浮かべる。

風景を撮るのも好きだ。この茜色の空を切り取るのも良いなと考えるが、それは撮りたいものとは違うと感じた。では、自分は何を撮りたいのか。空を仰いだまま、目を閉じる。

思い浮かぶのは、運動部の厳しい練習風景。文化部の真剣な姿。生徒や教師が楽しげに笑い合う日常の一時ひととき

やはり、人物を撮るのが一番好きだ。今まで撮ってきた写真は圧倒的に人物が多い。コンクールに出す写真も、人物を写したものばかりだった。


(撮るなら、今は……)


ある人物が、脳裏をよぎる。ゆっくりと目を開いて、桐皇学園のほうへ視線を移す。


『……青峰くん』


青峰と出会って、もう一ヶ月が過ぎた。練習など必要ないと、どこか諦めたような目をした彼はどんな風に練習をするのだろう。練習など必要ないくらい強いのだと言った彼のプレイ姿はどれほどすごいのだろう。

いつも気だるげな彼が真剣にプレイする姿を見てみたいと、強く思った。


『…ウィンターカップ、観に行きたいな……』


来月行われる、ウィンターカップ。青峰は試合には出ると言っていたから、そこでならプレイ姿を見られる。


『去年も行けなかったし、今年は絶対行きたいのだけど……間に合わないわね、きっと』


少女には、待っているものがある。それがウィンターカップまでに間に合わなければ、観戦しには行けない事情があるのだ。

望みの薄さに自嘲気味な笑みを浮かべた少女が立ち上がる。茜色から藍色へと変わりゆく空を背に、その場を離れた。


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