エターナル・ワールド




 『カズ』は、草原をぼんやりと歩いていた。
 前を見れば、どこまでも続くかのように広大な大地。上を仰げば、果てがないような青い空。
 美しいそれに見惚れることはあるが、でも、そんなものはただの作りものなのだということを知っている。全ては現実ではなく、作り物。
 無感動にぼんやりと見つめていたが、不意に、不愉快な甲高い鳴き声がして、思考を止めたカズは後ろを振り返る。
 そう遠くはない。ゴブリンの一団が、カズ目掛けて走ってきていた。
 カズは、小さくため息をついた。
「あー、うっかり近寄っちゃってたか」
 ぼんやり歩いていた自分が悪い。
 カズは面倒くさいなぁと呟きながらも、杖を取り出して、ゴブリンを殲滅すべく、呪文を唱える。


「こんなもんか」
 ゴブリンを倒したことによる微々たる経験値を確認して、カズはため息をついた。
 否、正確には『カズ』ーープレーヤーである佐山和人の脳波を読み取って、それを分身であるアバターの『カズ』が同じような動作を取るのだ。

 ーーエターナル・ワールド。
 それが、10年ほど前にサービスを開始された、このゲームの名前だ。剣と魔法の世界を舞台に、「終わらない世界で、君だけの物語を」という謳い文句でリリースされたMMORPG。
 このゲームは、プレーヤーに取り付けた器具によって、その脳波を読み取り、表情から小さな手の動きまで、アバターがその動作を同じように行う。表情や仕草まで事細かにアバターが表現してくれ、あたかも本当の自分自身かのような錯覚を覚えるほどだ。
 視界も最新のVRを利用して、専用のゴーグルを通してだが、360℃ほとんどゲームの世界をそのまま自分の目で見ているようなものだ。
 ただ、痛みや温もりなど触覚的なものは感じられない。あくまでもアバターはアバターで、生身の人間とは別のものだ。戦闘などの衝撃がある際には、バイブレーションの振動が感じられるくらいだ。
 一時は社会現象になるレベルでブームになったゲームなのだが、悲しいかな、10年も経てば、同じようなゲームどころか、それ以上のゲームは山ほどでてくる。
 現在では、新規で始めるプレーヤーなどほとんどおらず、やめていくプレーヤーの方が多いくらいだ。
 カズのフレンドリストも、半分以上はログインから半年以上経っている。


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