カズは、無精髭を撫でながら、もう一度ため息をつく。
 カズのアバターは、40歳程度の、無精髭の生えた男の姿だ。前髪を適当にかきあげたラフな髪型で、くすんだ青色のローブを纏い、木製の小振りな杖を持っている。職業は魔法使いだ。
 この歳になると、格好がいいアバターにしても、現実の自分と比較して、気恥ずかしくなってしまう。だから、カズはリアルの自分と同じような容姿にしている。
 無精髭だけは、リアルでやってみたいが社会的な問題でできないやつだ。だらけた冴えない姿ではあるが、案外似合っていて、気に入っている。

 まぁ実際、「冴えない」というのも、全く間違ってはいない。
 カズーーリアルの佐山和人も、リアルでは会社に尽くすしか能のない、冴えない45歳のサラリーマンだ。婚期も逃してしまっており、そのおかげで、こうして一人で休日の昼間からゲームになど勤しめるのだ。
 ただ、クエストもほとんどやり終えており、期間限定のイベントも今はなく、目的もなく、ぶらぶらしているだけ、なのだが。
 現実を知ってしまったおじさんには、残念ながらヒーロー願望もない。
 リリースされてから10年も経てば、トッププレーヤーになど追いつけるわけもなく、ただの一プレーヤーでしかなく、ヒーローになどなれないことを知る。
 何を求めて続けるのか、もはやカズ自身も分かっていなかった。

「昔はそれでもそれなりに楽しかったんだけどねぇ」
 そう思ってしまうのは、やはり歳なのだろうか。
 人よりも強くなり、他人から憧れられることを夢をみたこともあったが、そんなものは泡沫の夢だ。
 現実を知り、受け入れ、諦めてしまったが故に、昔感じた楽しさが分からなくなってしまった。遊び方すら忘れてしまったような気がする。
 ログインするのは習慣化してしまっており、とりあえずログインはするものの、今日もやりたいこともなく、こうしてぶらりぶらぶらとこの世界を歩く。


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