言い訳ばかりの大人たち
『貴方なんかもう知らないわ。さようなら!』
喚き立てるような怒鳴り声が、携帯電話越しに響き渡る。
その甲高く不愉快な声に顔を顰めると、次の瞬間にはもう一方的に機械的な電子音が鳴り響いた。
いつものこと、だ。なんの感慨もなく、ぼんやりと切れた携帯電話を眺めていた。
「社長、またですか」
その直後、呆れたような、しかし心配を含んだ声が、部屋に染み渡るかのように静かに響いた。
恋人だったヒステリックな女とは対称的だなと思いながら、慣れ親しんだその声に、顔を上げる。
「いつからいたんだ?」
デスクを挟んだ向こう側には、落ち着いたブルーのスーツに身を包み、苦笑とも困惑とも言えぬ笑み浮かべる女性。きっちりと纏めた髪とその服装からは、真面目で控えめな様子が、そしてその心配を含んだ声音からは温かみが伝わってくる。
こういう聡明さと優しさを併せ持った相手だったら長続きするだろうに。そんな、現実にはあり得ないことを、取り留めもなく考える。
彼女は、彼の秘書だ。おそらく仕事を持ってきたのだろう。あまりよろしくない場面ではあるものの、付き合いの長い彼女は彼のこういう場面にも慣れているが故に、それほど気遣う必要はない。
「つい先ほど。社長が、また恋人に振られた辺りからです」
しかし、丁寧でありながらも、僅かに棘のある言葉には、彼女の呆れが如実に伺えた。
控えめで真面目な彼女が、口出しするようになるほどには繰り返されているやり取り。
忙しいから、今日は会えない。
忙しいから、また今度電話する。
忙しいから、両親への挨拶はまた今度。
忙しいから。忙しいから。忙しいから……。
重ねてきた言い訳。今別れた恋人と、否、今までの恋人たちと会ったのは、幾度だろう。連絡を取ったことすら、何回あったのだろうか。
そうして、気付けばいつも振られている。