「そうね、その通りだわ」
 暗く瞳を伏せ、そっと上げた視線は煌めく星へと注がれていた。
 小さな星たち。名前もないような、誰も必要とも考えていない星。
 彼女はそれを見つめながら何を考えるのだろう。何を今考えているのだろう。
 遠い、そう思った。彼女と自分のその距離を感じたような気がした。

「でも」
 沈黙を破るように、俺は小さな声を落とす。
 まるで夜の闇の水面を揺らすかのような、それに彼女はこちらへ視線を向けた。
「でも、アンタは、それでも願い続けるんだ。諦め、ないんだろう?」
 問うまでもなく、それは明白だった。
 その瞳が揺れる。相貌にうっすらと浮かぶのは、笑み。

「ええ、そうよ」
 強い瞳で、彼女は頷く。
「諦めたらそこで終わりだから。私は、何もせずに諦めて何も変わらないよりも、無駄かも知れないけれど足掻き続けることを選ぶわ」
「苦しくても?無駄に終わっても?」
「ええ。だって生きてるんですもの。苦しくない人生、無駄のない人生なんて、ありはしないわ。そんか先のことを考えて、やりたいことをしないの?全てを諦めるの?」
 その言葉にはっとする。
 その通りだ、と。
 それは、あまりにも変わらない日々に、俺が目を背けてきたことだった。
 無駄だったか無駄でなかったか、意味があるかないかなど、全てが終わってからでないと分からない。
 全て終わるまで、自分は何もせず、諦めて静観するのか?否、そんなことはできるわけがない。

「ねぇ、貴方も、願いがあるなら、そんなに簡単に諦めちゃダメよ?」
 彼女は笑う。現実を知りながら、それでも微笑みを絶やさない。
 その姿に惹かれた。現実を知りながらも諦めない強さをもった、その強さに。
 そんな彼女と共に歩みたいと思った。生涯を共に歩きたいと。

(ああ、だけど)

 それを口にするには、王子という身分の自分と、どこで生まれたかも分からぬような彼女。その身分の隔たりはあまりに大きく、そして重かった。
 彼女の傍に、という自分の願いもまた、まるで遥か彼方にある星のようにあまりに遠く、途方もない願いなのだ。

 だから自分は、せめて彼女の願いを叶えるべく、奔走しよう。
 降り注ぐような星の中、小さな輝きをもった彼女の歌を胸に。



END

2018.11.26


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