溺れる声


ぐったりと横たわった男に近づく影が一人。それに気づく様子はなく、男は眠り続けている。

「なにやってるんですか、こんなところで」

少し呆れた様子で男に声をかけた。男が寝ていたのは公園のベンチだった。声に反応してぱちりと目を開けると近づいてきた影の方を見上げる。名前を呼ぼうとしたのだろう。口をぱくぱくと開閉させたが声は出てこなかった。

「課長…声が出ないんですか」

男はなにかを悟ったようにゆっくりと口を閉じるとこくりと頷いた。



その男、来須は数時間前にある約束をしていた。代償と引き代えにゲームへの再挑戦権を手に入れることだ。願いを託したとはいえ、まだ諦めきれずにいた来須にはデウスからの提案は夢のようだった。二つ返事で了承し、眠りに落ちた。目が覚めると西島の姿が見え、声をかけようとして息をひゅうひゅうとふいた。息は出ても声は出ないのだ。ああ、本当に俺は生き返り声を失ったのだと実感する。

状況を把握した西島がポケットから手帳を取り出した。筆談を求めているのだろう。この世界は俺が死ぬ前の過去の世界であるはずだから西島はサバイバルゲームに関して俺がしてきたことを知らないだろうと思い、話すかどうか迷って結局その部分は伏せて簡単に概要を書いた。

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