夜の獣耳
プルルル、と鳴っている携帯を手に取ると慌てたような様子で涙声の雪輝くんの声が耳に飛び込んでくる。
「ど、どうしよう…!秋瀬くんなら何とか解決できないかなって」
まさか、他の日記所有者が急襲を。
そんな事が頭に過ったが電話口からはバタバタと暴れるような物音もなく、静まりかえり雪輝くんのすすり泣きが聞こえるだけだ。
「今はどこにいるんだい?」
「家にいるよ」
「今からそっちに行こう。待っていて」
夜なのにに悪いよ、と言うので謎をこのままにして眠ってなどいられないと説き伏せると、身支度を整えて足早に雪輝くんの家へ向かった。
「夜分遅くに失礼します、雪輝くんは…」
「あ、秋瀬くん。今日は母さんいないんだ。それでその、あんまり驚かないで欲しいんだけど」
扉の向こうからおずおずとした返答が返ってくる。
扉を開けるのを躊躇っているようで数秒だけ間が空いた。
「…雪輝くん?」
意を決したのか扉が開かれる。
まず目に入ったのは頭についた大きな獣耳、ズボンをずらして出された尻尾。
「これは…」
「ね、どうしようこれ…」
お尻をこちらに向けて尻尾を指に絡ませ見せてくる。
「ちゃんと生えてるんだこれ…由乃に裸見せて調べてもらうわけにはいかないし」
雪輝くんは本当に困っている様子で、助けてあげたいが…。
これは役得といえるのか、それとも生殺しか。
答えはどちらも、だろう。
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