溺れる | ナノ

 

※軽度のモブ表現有り







人混みの中を通らず、路地裏を足早に歩いて帰る。
先程まで援交サイトで引っ掛けた男によって中途半端に弄ばれた身体は、帰り掛けに飲まされた催淫剤の効果も相まって、酷く疼いている。


“これに懲りたら、もうこんな遊びはしちゃ駄目だよ”


足の力が勝手に抜けて、ホテルのベッドから起き上がれなかった臨也に、数枚の万札と共に告げられた男の言葉が蘇り、屈辱的だった。
ふざけんな、だったらなんでこの状態で放置しておこうと思うのだ。好き勝手していった男への恨み辛みを唱えても、今置かれた臨也の立場は変わらなかった。

「いーざーやーてめぇええ!!!!」
「、シズちゃんッ 」

ふらつく足取りで、ああタクシーでも拾ってしまおうと考えていたときだった。
最悪のタイミングで仇敵に声を掛けられて小さく舌打ちする。踵を引きずり後退りしてみても、静雄との距離は作れず、この身に籠もった気だるさもどうすることもできなかった。

「臨也ぁ、てめぇ机の中にあ、あんな変なもの入れやがって!おかげで俺が恥かいたじゃねぇかよ!!」

臨也が入れたのは成人向けの雑誌だ。
今時の男子高校生、そのようなものを見てもここまで恥ずかしがることもないだろう。静雄は耳ならず首までも真っ赤に染めて照れている。それを見て逆に呆れてしまうのは臨也だけではないはずだ。これだから童貞は……しつこい…。
しかし今、臨也の意識を支配していたのはどうしようもない熱だ。静雄の相手なんてまともに出来るわけがない。どうにかして、早く彼から離れようとする。

「…ははっ、しず、ちゃん俺さぁ、今それどころじゃないんだよね……じゃあッ!」
「おい!…俺がやすやすとてめえを逃すとでも思ってんのかぁッ!?」
「……ッ」

もたつく足で、静雄に背を向けて歩き出そうとした臨也の腕が掴まれる。ぐい、と引っ張られ力を入れることの出来ない身体は簡単によろめいて、臨也は膝から崩れ落ちた。
熱が回りきってぼう、とする。虚ろな眼差しで静かに見詰めてくる臨也の様子に、初めて静雄は異変に気付いた。

「なんだよ?ふざけんなよこの野郎が、おいさっさと起きやがれ」
「……ッ…」
「あ?早くしろ……っておい?」

口を開けば好からぬ声が出てしまいそうで、もう何も言えない。それに何処か頭が働かなくなった。それと同時に急激に眠気が襲ってきて、意識を保つことから困難になり、臨也の意識は仇敵の前にも関わらず呆気なく、陥落する。
最後に何か静雄が呟いているのが聞こえて、その後は何も知らない。
臨也の意識はそこで途絶えた。














不覚だ、こいつをこんな所に連れてきてしまうなんて。

意識を失った臨也は今、静雄の家の静雄のベッドの上に転がされていた。意識の戻らない様子の臨也を、あのまま路地裏に放置してこれる程、静雄は非情には出来てはいなかった。安定しない呼吸、ぐったりと弛緩したまま目覚める気配のない男を何処か安全な場所にでも捨ててきてやろうとも思ったが、何処も考え付かなかったのでこうして静雄の家へと連れ帰るしかなかったのだ。

「……にしても、」

眠ったままの臨也など、初めて見た。
整った綺麗な顔の、小さな唇は少し半開きになり、先程からはぁはぁと忙しなく呼吸を行っていた。白く柔らかそうな頬は、朱を注したかのように色づいて、臨也に渡された雑誌に載っていた女よりも、とても艶美に映った。

「(…俺だって、そういうことに興味がねぇ訳じゃねぇ……)」

今、目の前にそんな男の欲を擽るような存在がいて、手を出さずにいられる男が何処にいようか。ましてや静雄は童貞で、臨也が女ではないと分かってはいても勝手に手が伸びて、その白い胸や腹を晒してやろうと服を暴いてしまった。
白く上下する胸の上に、赤い乳首以外にも紅い斑点がいくつも散っているのを見て、ここで少し恥ずかしくなってくる。臨也が自分とは違い、そのような経験は奔放だとは聞いていたが、実際目にするのと聞くのとでは全く違う。しかし生々しい情痕を見て、静雄は手を止めるどころか逆にその動きを速める。

臨也がその身体に他人の形跡を残していることが、ひどくイラついた。

その原因も深く考えようとしないまま臨也を裸に剥き終えた静雄は、先程からちらちらと目に付いていた臨也の性器の変化に少し驚いた。

(なんで、勃ってやがるんだ……?)

臨也の身体は静雄が手を加えずとも、既に反応していて、ようやくその呼吸の荒さや異常な発汗の理由に気付いた。

(なんか、ムカつく)

「……んッ?」

瞑っていた目瞼がぴくりと動き、影を作る長い睫毛が揺れる。
臨也は目を覚ましても始め、自分の置かれた状況をよく理解していなかった。静雄が声を掛けないまま見ていると、きょろきょろと目だけを動かしてだんだんと意識をはっきりさせていく。自分が身に何も纏っていないと気付いた瞬間、飛び起きて逃げようとする身体を、静雄は即座に押さえつけた。

「……ッやめろよ、なに、してるんだよッ!」

力が入らない身体で、臨也は全力で抗う。
しかし、通常でも力の強い静雄に逆らえるわけがなかった。暴れる両手と両足を静雄が片手ずつで簡単に押さえ込んできて、臨也に抵抗する術はなかった。

嫌な予感しか、しなかった。


「……なぁ、ノミ蟲」
「な、なにっ…」

「諦めろ」


静雄が臨也の唇に噛み付く。
柔らかな唇を貪り、舌をすぐに差し入れて絡ませる。ぴちゃぴちゃと水音が口内で響くと、とても満足した。したことのないキスは、少し不器用で拙かったが、獣のように食らいつき、長い時間蹂躙する。臨也は苦しそうにもがいていた。
キスに集中せざるを得なくなった身体は、意識が簡単に拘束からずれて、静雄は両足を押さえつけていた片手を離し、ずっと静雄を誘ってきて止まなかった乳首へと手を伸ばした。

「…んッ、ふっ……はっぁ」

唇を離しても、臨也から罵倒はこない。
酸素を取り込む動きに集中する胸の上にある乳首を、摘んだり弾いたりしながら愛撫していくと、その口は喘ぐことしか出来なかった。
乱暴にしているのに、臨也の身体はおかしかった。
たくさんの人間の愛撫に慣れた身体が、未だ経験のない自分の愛撫に乱れることが少ないことは、静雄にも分かっている。それでもその原因を確かめる余裕すらないのも童貞故で、静雄は臨也の身体に散る鬱血痕に噛み付きながら、性急に愛撫をしていった。

「ひあぁあッ、んン…ぁ、ふぁ」

先程よりも勃ちあがり、先走りの蜜に汚れる臨也自身を手の中に包み込み、上下に扱く。
頬を上気させ、素直に快楽に溺れたままの臨也は可愛く見えて、その様子に静雄は狂わされていく。胸に何かがこみ上げてきて、その衝動をぶつけるように、静雄は彼のこめかみや首筋などに次々と唇を落としていく。
ぬるりと粘ついて青臭い匂いを放つ先走り。静雄は初めて他人の熱を弄んだ。
他人のなんて真っ平だ、と思うが、臨也の熱だけは別だった。臨也が喘いで、彼の興奮を見る度に、静雄は煽られた。

ふと、頭上で組まれた腕がシーツを掴んで震えていることに気付く。

諦めた様子で、臨也はもう抵抗する気はないらしい。その腕をとって自分の身体に回させた。背中に爪を立ててもいい、というと臨也はこくりと小さく頷いた。これ以上、煽るな。

そろ、と臨也の後孔へと指を這わすと、その花唇は既に瑞々しく潤っていた。
彼の身体から分泌された液とは違う体液に濡れていて、彼の身体が誰かに明け渡された直後のものだと、知る。
醜い嫉妬から、思わず臨也の中へと二本の指をいきなり突き入れる。
臨也の身体が衝撃にびくん、と跳ね上がり大声を上げるので、一瞬青ざめたがどうやらそんな乱暴に扱っても平気らしい。ほっとしつつ、入れた両方の指を同時に動かし始める。

中は狭かった。
二本の指を入り口はぎゅうぎゅうに締め上げ、内膜は中に取り込むように蠢く。指をばらばらに動かすと臨也は一々嬌声を上げるので、静雄の性への期待感は高まった。
ズボンの中にしまったままの己の自身が窮屈に感じ臨也の中を指で広げながら、片手でベルトを抜き、自身を取り出す。脈打って臨也の痴態に散々煽られたそこは、痛いくらいに勃起していた。

「……いれても、いい、よ…」

ふと、臨也が呟いた。
その視線は静雄の立派に勃起したものに注がれていて、期待に満ちていた。静雄だけでなく、臨也もまた限界だった。おそらく、臨也は何かクスリを与えられている。静雄を見る目は虚ろで、誰に抱かれているのかも判断できていない様子だ。それを分かっていながらも、静雄はその手を止めることなどもう、出来なかった。












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