■謝恩会のはじまり
「シンデレラー?」
「そう!その王子役!!」
あおいとクロバがどうなったのか。
結局聞くこともできないまま時が流れてもうすぐ卒業式、って頃。
まーた園子が嬉々としておかしな提案をしてきた。
「冗談じゃねー。なんでそんな劇に」
「あおいがシンデレラなのよね」
我ながら単純だと思う。
でも、ピクッと体が反応したのが自分でもわかった。
「決まり、ね!」
「…」
こんなやり取りで俺の王子役は随分あっさり決まった。
「おい、園子」
「なにー?」
「あおい、シンデレラはシンデレラでも城に来ねぇ方のシンデレラじゃねぇかっ!」
「あれ?言ってなかったっけ?」
言ってなかったっけ?じゃねーっての!
城に来ねぇ方なら俺と会うことなく劇が終わるシンデレラだろーがっ!!
「ダイジョーブよ!そこらへんこの園子様に考えがあるから!」
「どーせロクな考えじゃねーんだろ?」
明からに何かたくらんでる園子を尻目に、謝恩会シンデレラの稽古が始まった。
「工藤くんが王子様なの?」
「俺だってやりたかなかったんだよっ!」
めんどくせぇだけじゃねーか!
…で、でも、まぁ、目立つの嫌いじゃねーし、抜擢されたからにはしっかりと役をこなすけど?
そんな風に意外にもスパルタな演出家園子の指導の下稽古が続きあっという間に本番当日。
「は!?ラストを変える!?」
「そーよ!この園子様最大にして最高のラストのためにね!」
「…バカ言ってんじゃねーよ、もう1時間もねーんだぞ!?俺ならともかく今からあおいが台詞覚えられるわけねーだろ!?」
「だーかーら!あおいにはその時ギリギリまで内緒にしてアドリブでやろうって言ってんじゃない!」
「…はああ!?それじゃ劇がめちゃく」
「丸3年!」
「は?」
「…もうすぐあおいがこっちに来てから3年経つわよね?」
「…そーだけど、今そんな話してるわけじゃ」
「その3年の間、何があった!?」
「何が、ってなんだよ?」
「毎日毎日飽きもせずにお手手繋いで登下校してるくせにあんたらまっったく進展ないじゃないっ!!!」
「べ、別に手繋いでなんかいねーだろーが!」
「今の状態はあんたがシャキッとしないからでしょ!いい加減はっきりさせなさいよ、新一くん!!!」
園子の勢いに圧倒され体を少し仰け反らせながら、園子の隣にいる蘭を見た。
「ごめんね、新一。…園子この間、自分が気に入ってた野球部の子に『彼女にするなら芳賀先輩みたいにちっちゃくて可愛い感じの人がいい』って言われちゃったから…」
それ俺のせいじゃねぇじゃねーかよ!!
「ソイツの話はもういーからっ!!」
気にしてるのはオメーだろーが。
「とにかく!このままだと永遠に告白もできなそーな新一くんが白黒はっきりさせるために、大観衆見守る舞台の上で王子になりきってコクって来いって言ってんのよ!」
「…はああああ!?ふざけんじゃねーよっ!なんで俺が」
「あんたたちがサッサとくっつけば私がフラレることもなくなんのよっ!!!」
「だからオメーの事情に俺を巻き込むんじゃねーよっ!」
「とにかく!!これは演出家の命令よ!みんなにはもう言ってあんだから、ビシッと決めてきなさいよ!?」
「ふっざけんじゃねーよ!俺はやらねーぞ!?」
だいたいそういうものにはタイミングってのがあって、強制的に(しかも赤の他人が見守る舞台の上で)するもんじゃねーっての!!
「ほらね、園子。新一は無理だって言ったでしょ?だから予定通り、」
「…そうね。はい、新一くん」
「…なんだよ、コレ」
「台本よ、台本!私は新一くんの言葉で!コクったら良いって言ってんのに、そんなことできるわけないって蘭が言うから作っておいたのよ、念のため!」
台本あるなら初めっからそっち出さねぇか!
ったくよー、なんなんだよ、俺に絡んでくんじゃ
「…なんだコレ?」
「だから台本よ、台本!」
「…オメーこれ自分でちゃんと読んだか?」
「失礼ね!読んだどころか、私が!書いたのよっ!!」
いや、だってコレは
「もう時間ないんだから2択よ、2択!その台本が嫌なら舞台の上でコクってくんのね!」
俺が嫌とか言う以前の問題じゃねーのか?
蘭はさっきから苦笑いだけで園子を止める気はないらしい。
…今に始まったことじゃねーけど、この女ほんっとに!
「どう?やってくれるわよね?」
「…やるしかねーんだろ?」
「さっすが新一くん!」
明らかにオメーの憂さ晴らしに使われてる気がすっけど、つきあってやるよ!
…俺的にもまぁ、おいしー台本だし?
「で、でも新一ほんとに大丈夫?」
「…ああ。歴代で1番の謝恩会だったって言わせてやるぜ?見せてやるよ、賞を総なめにした女優の息子の演技をな!」
「かー…!語るようになったわね、あんたも!」
「ウルセェ」
こうして俺たちの謝恩会が始まったわけだけど。
「その時」が近づくにつれて園子がニヤニヤニヤニヤ…!
「オメーそのしまりのねー顔どうにかしねぇとあおいナシに考えてもフラレるぞ」
「うっさいわよ!ほら、そろそろ出番よ!いいわね!?台本通りにすんのよ!?」
「へーへー」
舞台を見ると劇も終盤。
「ああっ!小さすぎて私の足に合わないわっ!!」
「じゃあお前は!?」
「わ、私も、きつくて無理…」
「この家に他に娘はいないのか?」
何も自分からあえて灰かぶりの方選ばなくてもいーのに、とか思ったけど、それがすげぇあおいらしいとも思った。
「ま、まさかっ!」
「シンデレラがピッタリだなんてっ!!」
バシッ、と背中を叩かれる。
「ほら、出番よっ!!」
「わーってるっての!!………その娘か?かの姫が置き忘れた靴を履けた者は」
うーわ、ほんっとにあおいに黙ってたんだな。
コイツ俺が出てきたから、目飛び出るんじゃねーかってくらい驚いてやがる。
「娘。…私に顔を見せてはくれないか?」
カンペ持ってるヤツがいるのかチラチラ舞台袖を気にしていたあおいが、俺の言葉にゆっくりとこっちを見た。
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bkm