キミのおこした奇跡side S


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全中弓道関東大会の余波


想像以上に嫉妬深い


弓道関東大会。
気にならねぇか、って言ったら嘘になる。
「関東大会」ってことは間違いなく江古田と一緒。
ってことはクロバがいるじゃねーか!
そんな大会出たらあおいはまたクロバクロバって!!


「あおい試合どうなったかなー?」
「…さぁな」
「新一メールしてみたら?今日夕飯も別々なんでしょ?」


蘭に言われたからとかじゃない。
ただなんとなく、気になったから。
でも


from:芳賀あおい
sub :Re〉関東大会
本文:ダメでした(・ω・`)


ダメ、ってのは試合がダメ、ってことだよ、な?
じゃあ、クロバは?
そんな考えも翌朝吹き飛んだ。


「はよ」
「…おはよ」


明らかに寝不足な顔で元気ねぇあおい。
仮にクロバと何かあったなら、あの練習試合の時のようなテンションになってるはずだ。
ってことは、何もなかったんだな、クロバと。
俺の考えすぎだ。
そんな感じに軽く流していたけど、なかなかあおいの元気が戻らない。
関東大会が終わってからやたらケータイを気にして何よりため息が増えた。
…なんだ?


「あおいオメーさ、」
「え?」
「…まだ落ち込んでんのかよ、予選落ちしたこと」
「別にそんなんじゃないよ」
「…まぁ、さ。来年もあるし、な」
「だから大丈夫だって」


力なく、困惑したようにあおいは笑う。
…バーロォ、大丈夫じゃねぇじゃねぇかよ!


「え?ケータイ?」
「そー。アイツなーんかこの間からやたらケータイ気にしてんだけど、何があんのかオメー聞いてきてくんねぇ?」
「…別にいいけど」


俺に話せないことなら、蘭に頼むしかねぇ。
って思って蘭に協力を仰いだんだけど、


「ごめん、新一。あおい言いかけたんだけど、園子来ちゃって話てくれなかった」


あの機関銃めっ!!


「あ、でもメールがどうとか言いかけてたよ?」
「メール?」


なんだ、メールって?
メール、メール、…って考えてもわかるわけがねぇ。
ちらっとベランダを見たら、あおいがケータイ眺めてた。
…こうなったら強行手段だ。


「オメーこの間から何ケータイ見てんだよ?」
「あっ!?ち、ちょ、返しっ」


あおいの手からケータイを奪う。
取り返そうとバタバタしてたけど、頭抑えこんで動きを止めてる隙にケータイを覗き込んだ。
うんー?


「メール画め」


一瞬、自分が見てる文字が間違いなんじゃないかって思った。


to :黒羽快斗
sub :芳賀です。
本文:登録お願いします。


「返してってばっ!!…ひ、人のプライバシー覗いちゃダメなんだよ!」


…なんだ、今の?
「to :黒羽快斗」?
「黒羽快斗」?
クロバッ!?
はっ!?アイツこの数日あのメールで悩んでたのかよっ!?
どーいうことだよ、何もなかったんじゃねぇのかよっ!?
ふっざけんじゃねぇ!!
あのメール送らせてたまるかっ!!


「「いただきます」」


今の俺の脳内、クロバ対策についてばっかりで今日のメシが何かなんて、全く頭に残らなかった。


「工藤くん、コーヒーおかわりは?」
「俺はまだいー」


今日はやたらとコーヒーを薦められる。
コーヒーどころじゃねーっての!
問題はどーやってあのメールを阻止するか、だよな…。


「トイレに行ってくるね」


席を立ったあおいを横目で見送る。
あおいがいた席の隅には、俺とお揃いのケータイが置いてあった。
…今までケータイなんかカバンに入れっぱなしだったくせに!
なんなんだよ、俺と同じケータイでクロバにメールしようとしてんじゃねーよ!!
…てゆうかアイツ、クロバにメールしたのか?
はっ!だから今日機嫌良く俺に何杯もコーヒー入れてるとか!?
後から考えたらほんの出来心…では済まないかもしれないけど、この時の俺は気になって気になって、ついつい、あおいのケータイに手が伸びてしまった。
ええ…っと、送信画面、は………なんだ、まだ送ってねぇじゃねーか!
だよな!
アイツあれだけ悩んでたのにここに来ていきなり行動的になるわけがねぇ。
ほっと気を抜いた瞬間だった。


「あっ!!」


自分の前に開いたまま置いていたあおいのケータイの上に、コーヒーが零れた。
わざとじゃないっ!
決してわざとじゃないっ!!
…けど、自分の中の悪魔が囁いた、気がした。
今すぐ拭き取れば大丈夫かもしれない。
でも、放置していたら?
ケータイ内部にコーヒーが染み込んでケータイがイカれるんじゃねーか?
これはある意味チャンス。
クロバにメールする以前にケータイが壊れちまえばメールのしようがない。
そう瞬時に頭が働いた時だった。


ガチャ


ビクッと体が反応した。
リビングのドアを開けていたため、廊下の向こうで扉が閉まる音が耳に入ってきた。


「あおいやべぇ!!ふきん持ってこいっ!!」


さっきまでの悪魔の囁きも瞬時に吹き飛んで叫んでいた。


「オメーのケータイにコーヒーかかったっ!!」
「ええっ!!?」


その後は(主にあおいが)あたふたとテーブルやケータイを拭いたけど、断言していい。
あのケータイはもうダメだ。


「が、画面が…」
「それ防水じゃねぇからイカれちまったな…」


あおいが呆然とケータイを眺めている。
俺何やってんだよ…。
いくらメールさせたくないからって、他人のケータイ勝手に見た挙句に壊すか、普通…。


「わ、悪かったって…。ほら!俺もそろそろケータイ買い換えようと思ってたし!明日買いに行こうぜ!なっ!?」
「…ケータイが…」
「大丈夫だって!また博士に保証人頼んでさ!な!?そうしよう!明日新しいケータイ買いに行くぞ!」


あおいはその後ブツブツとケータイが、とか、メールが、とか呟いていた。
これでクロバにメールはなくなったハズだ。
…だけど偶然の事故が引き金とは言え他人のケータイ壊すとか、人としてどーなんだ、俺。
コイツ好きって自覚してから気づいたことの1つ。
男、っていうか、俺は想像以上に嫉妬深い生き物らしい。
…次のケータイは防水にするように薦めよう。
急遽できた明日の予定が、嬉しいような、申し訳ないような、複雑な気持ちを誘った。

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