キミのおこした奇跡side S


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動き出す物語


揺れたキミの瞳


何がそんなに苛つくのかわかんねぇ。
でも、さっき見たあおいの顔!
誰がどー見ても、あの学ランの男意識してますって顔だったじゃねーかよ!
あの顔を見てからとにかくイライラしてならねぇ!


「あ…」
「…なんだよ」
「え!?あ、ううん、ちょっと思い出して…」
「何を?」
「…大したことじゃないよ?」
「蘭、言いかけたなら最後まで言え」
「う、うーん…。…今日の練習試合の相手、江古田中、だったよね?」
「…だな」
「た、たぶん、だけど、」
「あん?」
「…さっきの人、」
「アイツがなんだ?」
「ま、前にあおいが良いな〜、って言ってた人、かなぁ?とか、思っちゃって、」
「…いつの話だソレ」
「え!?…ええっと…去年の夏休み?」


去年の夏休み!?
そんな昔のこと覚えてねーよ!
そもそもなんでアイツ江古田の人間なんか知ってんだよっ!!
地方から来たって前言ってなかったか?
どうやって江古田の人間と知り合ったんだよっ!!


「そこでね!大丈夫?ってサッと手を差し出してくれたんだよっ!まさに王子様っ!!!」
「そうなんだ…」


あおいの帰り支度も終わって、蘭と3人歩き出した。
蘭がさっきから俺をチラチラ見てる気がする。
あおいの話と言えば試合のことじゃなく、さっきの学ラン男、クロバの話だけだった。


「ね、ねぇあおいそろそろ」
「しかもね!!」
「え!?まだ続くの!?」
「…そんな言い方酷いっ!」


酷かねーだろ!
いつまで続けんだよクロバ談義!
だいたいなんだよクロバ!!
王子様だぁ?
ふざけんじゃねーよ、何が王子だっ!!
俺より少し背高いだけのガキじゃねぇかよっ!


「あ、あのさっ、」
「うん?」
「私ちょっと用があるから、今日こっちから帰るね!」
「え?そうなの?」
「う、うん!ごめんね!じ、じゃああおい気をつけてね!」
「…うん?蘭もね?」


そう言うが早いか蘭はあっという間に走り去って行った。
どうせならこのバカ女黙らせてから行けっ!!


「あ!工藤くん私の渾身の一撃見ないで帰っていったでしょ!?」
「はあ?」
「あれすっごいうまく決まったんだよ!主将からも誉められたし!」
「いや、俺」


見てたんだけど?
って言いかけたら


「黒羽くんも誉めてくれたんだよっ!」


出た、クロバ。
さらに不機嫌メーターが上がったのが自分でもわかった。


「型も綺麗だからこのまま頑張れば関東大会で良いとこ狙えるんじゃないかって!」


テキトーなこと言ってんじゃねーよ、クロバ!


「工藤くんは知らなかったよね?黒羽くんて中1で全中3位になったんだよ!」


俺だって中1で帝丹を全中に連れてったっつーのっ!!


「黒羽くんが弓道してる姿、今日初めて見たけどやっぱりカッコいい!」


ただ黙って棒引いてるだけじゃねーかよ!



「なんて言えばいいかなー!袴って、他の部にはない凛々しさがあると思わない!?もうその凛々しさが際立ってっ!!」


サッカーだって芝の上でやる凛々しいスポーツだっつーの!


「見た目がカッコいいだけじゃなくて、優しくてすっごいカッコいい!!」
「…つーかオメーさっきからカッコいいしか言ってねぇじゃねーか」
「だってカッコいいんだもんっ!!」


何がカッコいーだよ!
馴れ馴れしく触ってくるようなセクハラ野郎じゃねーかっ!


「黒羽くんはマジックでお花出したりするけど、ほんとは黒羽くん自身がお花背負ってるんだって!!」


ばっかじゃねーの?
そんな男気色悪ぃだけだろ!


「今度黒羽くんに会うのは関東大会?」


いい加減クロバクロバうるせぇんだよっ!!


「弓道人口少ないからいきなり関東大会なんだけどね!でもそれって頑張れば黒羽くんと一緒に全中!?」


俺の名前はクロバじゃねーっての!!


「そんなことになったら大会期間中ずっと一緒っ!!」


いい加減、やめねーかっ!!


「もう黒羽くんなんであんなカッコいいんだろ!あんなカッコいい人見たことなっ」


不機嫌メーターが振り切れたら、人は自分でも思ってもみない行動に出るらしい。


「クロバクロバ、うるせぇんだよっ!」


今までにない、至近距離で黒い瞳が揺れていた。


「ご、ごめっ」


バッと掴んでいた腕を離し、あおいから遠ざかる。


「俺今日1人でメシ食うから、オメーも1人で食え」
「…わ、わかった」
「じゃあな」


いつもの帰り道、いつもの土手。
いつもならもう少し真っ直ぐここを歩く。
でも今日は、普段は通らない道を駆け降りた。

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bkm

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