キミのおこした奇跡side S


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深まる謎


迷惑テンション・闇の猫男爵夫人


だいぶ声が安定してきたこの頃。
母さんから電話が来た。


「は?ロスに?」
「そう!新ちゃんがいつもお世話になってるし、年末年始にどうかしらって思って!」


なんでもあおいをロスの自宅に招待してぇんだとか。


「…俺が世話してやってんだけど」
「なんでもいいから誘ってよ、あおいちゃん!」
「…いや、アイツもさすがに年末年始予定あんだろ。来ねぇんじゃねーの?」
「そんなの嫌よっ!私たちだって会いたいものあおいちゃんにっ!」
「めんどくせーなぁ、だったら自分で誘いにくりゃいーだろ?」


その後もなんかぎゃーぎゃー言ってたけど、無視して切った。
年末年始ねぇ…。
そういやアイツ、誰と過ごすんだろ?
クリスマスとか、大晦日とか。
1人…じゃ、ねぇよな、さすがに。


「オメー年末年始どーすんの?」
「どーすんのって?」
「予定。あんのかって聞いてんだよ」
「うーん、とね。大晦日は紅白にアース・レディースが出るから見なきゃでしょ!年始は4夜連続探偵左文字スペシャルを見て推理力をあげるのっ!」


…どう好意的に解釈しても1人っきりの年末年始なんだな…。


「俺終業式終わったらロス行くんだけどさ、」
「…それ何自慢?」
「行くか?オメーも一緒に」
「…………はっ!?」


やっぱ俺コイツの環境に同情してんのかな…。
それってすっげぇコイツに対して失礼なことだと思う。


「前に親にオメーの話したら、この間電話で年末年始に呼んだらどーかって言われてさ。航空券もうちが出すし、泊まるとこはロスの俺んちだから金かかんねーしな」
「い、いいの!?」
「あー、別にいーぜ。オメーが嫌じゃなかったら」
「行きたい!!」


パッと喰いついてきたかと思ったら、あっという間に顔が青ざめた。
…なんだぁ?


「私パスポートないや」


ああ…。
そういうことか…。


「今から申請すりゃ余裕で間に合うから大丈夫だって」
「…いや、そうじゃなくて」
「なに?なんかあんのか?」
「あ、ううん、別に…」


なんかまだ顔が青ざめてるような気がする。
…パスポート申請になんかあんのか?


「まぁ別にすぐ答え出せってわけじゃねーし、行きたくなったら言えよ」
「…わかった」
「あ、でも行くならパスポート申請に2週間は見とけよ?それと年末年始行ってる予定だから行くなら最低でも10日は滞在すると思っとけ。」


ああでもコイツ英語できんのか…?
まさか現地行ってつきっきりでお守りじゃねーだろうな…。
あり得る。
コイツならあり得る。
ネイティブになんか聞かれたらあっという間にパニックになって猫語喋りそうだし。
行くなら事前に簡単な英語教えとくかな…。


「今日夕飯なんだっけ?」
「え?あ、うん、今日はカレー」
「あー、そういやこの前のカレー」
「新一覚悟っ!!」


この前のカレー、ジャガイモの芯残ってたヤツあったぞ、って言おうとしたらまさかの声が聞こえた。
これはもう条件反射。
声が聞こえた瞬間、サッと扉の影に身を引いた。
ら、案の定、扉の向こうから水が飛んできた。
…あおいの顔に。


「あ、あれ?あなた誰?」
「もっとまともな再会はできねぇのかよ…」
「新一!良かったいたのね!知らない子に水鉄砲当てちゃったわ!」


良かった!じゃねーよ!
もっとフツーに会いに来れねぇのかよ。
つーか、何しに来た、って、アレか。
あおいを年末年始ロスに誘うためにわざわざロスから来たのか…。
我が親ながらその金の使い方があり得ねぇ。


「とりあえずタオル出してやって」
「ああ、はい。ごめんなさいね、新一と間違えちゃって…」
「いえ…」


あおいはかなり豪快に水を掛けられ、差し出されたタオルで顔を拭いた。
タオルから顔をあげると、驚き、というか、なんとも言えない表情をした。
まぁそうだよなぁ…。
初対面のオバサンに水鉄砲で顔面に水かけられることなんて、長い人生でそうそうねぇもんな…。


「俺の母さん。で、コイツが前言ってた芳賀あおい」
「ああ!あなたが噂のあおいちゃん!ほんとちっちゃい子なのね!」


きゃー!とか騒ぎ出しそうなくらいの勢いで母さんが言った。
…これは煩くなるな。


「初めましてあおいちゃん!いっつも新ちゃんがお世話になってます!」
「俺が世話してやってんだよ」
「またまたぁ!新ちゃんてばすーぐそういうひねくれたこと言って!」


俺は事実を言ってるだけだっ!!


「あ、あのっ!」
「うん?なぁに、あおいちゃん?」
「ふ、フツツカ者ですがよろしくお願いしますっ!!」


…俺の聞き間違いか?
いやでもこのこれ以上頭下げれません!て所まで深々と頭下げてるコイツと、徐々に顔が喜々としてきてる母さんを見れば聞き間違いってわけでもなく。
いや、オカシイだろその言葉っ!!


「痛いなっ!なにすぶはっ!」
「ちょっと新一!女の子に手をあげるなんてどういうつもりなの!?」
「どーもこーもねぇだろっ!明らかに今の挨拶おかしいじゃねーかっ!!」
「あら可愛いくていいじゃない!」
「よかねーよっ!!」
「だいたいね、新一!お母さんはそんな手の早い子に育てた覚えはないわよ!」
「よっく言うぜ!息子放ってさっさとロスに移り住んだ人間が!」
「あら、だからあの時新ちゃんも一緒に行きましょう、って言ったじゃない!」
「だーから、俺はアメリカの学校に興味ねぇって言っただろ!そうじゃなくて日本に残るって選択肢はなかったか、って言ってんだよ!」
「だーってぇ、元々新ちゃんが赤ちゃんの頃から移住の話はあったんだけど、新ちゃんが6年生の時に優作がもっと静かな場所で君と2人の時間がほしい、なんて言うんだもの!じゃあ静かな場所に移り住みましょう、ってなるでしょう!」
「ならねぇよ!!」


母さんがあおいを抱きしめたまま、俺たちの言い争いは続いた。

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