キミのおこした奇跡side S


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ラビリンスへの誘い


迷宮への入り口


ピリリリリリリ


普通に、普通に。
耳元で聞こえるコール音に大きく深呼吸。
メルアドがどうあれ、今まで通り接するんだ、俺。


「も、もしも」
「テメー今までよくも俺の電話無視してやがったな?」


って、思ったら、開口一番今まで電話に出なかった恨みが出た。
だから「怒りっぽい」とか言われんだよなぁ…。


「ご、ごごごごめっ」
「しかもメアド変えたの俺だけ教えなかったよな?」
「ち、ちがっ」
「大体なんだよこのアドレス!」


触れなくてもいいことなんだけど。
イチのこと指してるメアドなら、俺が突っ込まねぇのなんか変だし。
だからあえて自分から話を振った。


「べ、別に深い意味は」
「black catじゃなくてTortoiseshell catだろ?」
「…は?」
「三毛猫ホームズ!なんだよ、黒猫ホームズって!」


照れ隠しか?と聞かれれば、ああそうだ、と開き直るしかない。
でも普通聞けるか?
片想い中の女に「おい、あのアドレス俺のことだろ?」なんて!
万が一違った場合なんつーナルシストだ、ってことになるじゃねぇか!


「………………はぁ…」
「なにため息吐いてんだよ?」
「んーん…。そう、三毛猫ホームズって難しくて黒猫にしたんだ」
「だろー?あ、そういやオメー期末試験どーだった?」


…ほらな。
コイツはそういう女なんだって!


「じゃあ工藤くん、休学するの?」
「…の、予定」
「そっか」


いつ戻れるかわかんねぇ以上、出席日数足らずに俺だけ留年、とか泣くしかねぇ。
なんてポロッと洩らしたら、母さんがうまいこと学校に根回しして、各教科定期的にレポート出せば進級させるって約束をとりつけた。
そこはバイタリティある親に感謝しねぇとだよなぁ…。
学校側にごり押しして納得させたんだから。


「オメーさぁ、」
「うん?」
「…俺がいねぇからって、あんまそこらへんチョロチョロしてんじゃねーぞ?」


特にクロバ周辺で。


「ちょろちょろって何?」
「チョロチョロはチョロチョロだ!…てゆうかオメー服部の女に何喋った?」
「え!?は、服部の女って、和葉ちゃん?」
「おー。腹縫ったばっかなのにわざっわざ病室から俺に電話してきたぜ?和葉が工藤くんはけったいなお人や言うとりまんがなって言うために」
「…それ絶対日本語間違ってると思う」
「ウルセェ」


昨日も一緒にいたけど。
機械の声だったとしても、「俺」に話しかけてきてくれてることが、すげぇ、嬉しく思えた。


「んじゃまぁ、また電話すっから」
「うん、わかった」
「…メシ」
「え?」
「博士がいつでも食いに来いって言ってたぜ?」
「…うん」
「ま、1人暮らしの寂しい独身男にたまには会いに行ってやれよ」
「わかった」


俺とメシ食わなくなった、ってことは、ずっと1人なわけで。
たとえ博士と2人きりでも、たまには気分転換にいいんじゃねぇ?


「オメーも、」
「うん?」
「ちゃんとメールしてこいよ」
「…なに、『ちゃんとメール』って」
「メアド変更のメールに何週間もかけてねぇで、さっさとメールしてこいって言ってんだよ!」


オメーがあの短文に何週間も悩まなかったらこんなことにはならなかったんだし!
って思ってたら耳元でクスクス笑う声が聞こえた。


「なんだよ?」
「んーん!工藤くんだなぁ、って思っただけだよ!」
「…はあ?」


俺だなぁって、何が?


「工藤くん、あんまり無茶しちゃダメだよ?」
「あ?ああ…」


その後またね、って言ってあおいは電話を切った。
…よくわかんねぇけど、まぁ、良かったんだよな?
とりあえず電話できたし。
メアドも聞けたし。
うん、良かったんだってことで。


「各地で相次いでいる日本刀による刺殺事件ですが、今月に入って3件目となり、」
「怖いですねー!日本刀ですよ!」
「お侍さんがいるのかな!?」
「じゃあ犯人はちょんまげ結ってんだぜ!」


いつの間にかいつもの溜まり場、博士の家。
たまたまつけたテレビに今巷で騒がれている日本刀による連続刺殺事件についてやっていた。
随分と古風な武器で殺人を犯すものだ。


「あなたも気をつけることね」
「はあ?」


コイツ、灰原哀。
しれっと小学1年生として帝丹小に通っているが、俺と同じAPTX4869で幼児化した女。
つーか、コイツがあの毒薬作んなかったら俺は縮まなかったはずだ。
そんな女が今は博士の家の居候で、なんでか一緒に「少年探偵団」やってる。
世の中わっかんねーよなぁ…。


「あら、だってそうでしょ?」
「何が?」
「あなた、人に恨まれやすい事してるもの。闇討ちに合って背後からばっさり…なんて十分あり得ることしてるじゃない?」
「…はっはー!おもしれぇこと言うな、オメー」
「それだけ必死で身を隠してきた人間の逆恨みって怖いってことよ」


逆恨み、ねぇ…。
まぁだからこそ、必要なボディコントロール力は身につけたんだけどな。


「え?京都?」
「そうよー!お父さんが京都の山能寺ってお寺から依頼を受けたんだけど、そこのお寺の人が『夏休みに入るし、お堂に泊まることになりますが、良かったらお子さんもご一緒に』って言ってくれたの!コナンくんも行くでしょ?」


へー、京都ねぇ。
なんの依頼だぁ?
でも、ま、オッチャンだけじゃ頼りねぇし、もちろんついて行くけどな!


「じゃあ大人1、子供4でお願いするね!」
「え?子供4って?」
「園子とあおいも行くのよ!」


あおいも行くのか!?
…そういやアイツ中学の時、京都行って舞妓になりてぇって言ってたけど結局それっきり京都と縁がなかったからな…。


「ね、ねぇ、蘭姉ちゃん!」
「うん?なにー?」
「京都って、女の人が舞妓体験できるって僕聞いたことあるんだけど、蘭姉ちゃんたちしないの?」
「えー?うーん…あおいたちに聞いてみないとわかんないなぁ…なんで?」
「僕蘭姉ちゃんたちの着物姿見てみたいなーって!きっと似合うと思うよ!」
「えー、ほんとにー?じゃああおいと園子誘って舞妓体験しちゃおうかな!」


よし、頑張れ蘭!
舞妓姿はオメーにかかってる!
…って、俺も蘭に対して大概ひでぇことしてるっていう自覚は一応ある。
でも蘭は(本音は知らねぇけど)宣言通り、「コナン」にはもちろん「新一」にも「ただの幼馴染」という接し方を見せるし、してくる。
だからほんとにもういいんじゃねぇかって思う。
…自分の都合の良いように捉えているだけって言われればそれまでだけどな。
でもあおいと蘭の間になんかあったとか、そういうのもねぇ気がするし、あっちもあっちでうまくいってんだ。
俺1人気にしてんのも変だろ。
今まで通りの俺と蘭の関係でいい。
半ば自分に言い聞かせるようにして、今だどこかにある小さな消化不良な思いを飲み込んだ。
…こうして決まった夏休み最初の予定。
そしてこれが、あの事件への入り口となっていたなんて、この時の俺はまだ知らなかった。

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bkm

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