キミのおこした奇跡side S


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New York Case


高校生探偵始動


ヤル気だけがあっても、空回っていたら意味がない。
案の定というか、あおいは俺を見ない、話さない。
てゆうかオメーどこの芸能人だ?
ってくらい帽子を目深に被って顔を隠していて、俺の位置からは口元が見えるか見えないかくらいだった。
たぶん俺と目合わないようにするため。
これから旅行、って時にため息しか出ない。
あのヤル気はどこ行った?


「焦んない、焦んない。5日もあるんだから」


蘭はそういうけど、オメー俺の立場になってみろよ。
5日間、口聞いてくれねーヤツと一緒に旅行だぜ?
しかも相手は自分が好きな女!
焦るなって言っても無理だろ。
俺がやる、と言ってチケットを預かりあおいが真ん中に来るように席を取った。
俺が真ん中だったらあおいが嫌だろーし、蘭が真ん中だったら意味ねぇし。
隣に蘭がいれば俺と話さなくてもそっちに逃げ道があるし。
そんな思惑があったんだが、俺どころか蘭とも喋ってねーじゃねぇか、この女…。
なんで3人いて無言でロス行かねぇといけねぇんだよ…。
離陸とともに、ささくれた心に無理矢理蓋をして眠りについた。
てゆうかぶっちゃけ昨日眠れず、寝不足気味だったからちょうど良かったんだけど。
どのくらい経ったのか右肩に何か衝撃を受け目が覚めた。
なんか肩が重てぇ…。


「っ!!?」


声が出そうになったのを必死に堪えた。
いつの間にか帽子を取って寝ていたあおいが俺の肩に寄りかかってきていた。
ヤバイ、一気に目覚めちまった!
落ち着け俺、落ち着け。


「…いち…」
「へ?」
「……」


え?
何だ今の?寝言か?
「いち」って言った、よな?
そういやずっとイチにも会って


−イチは新一のイチじゃないかな?−


いつかの父さんの言葉が一瞬で蘇った。
カッと顔が熱くなったのが自分でもわかった。
いや待て、アレは父さんの推理にすぎねぇじゃねぇかよ!
憶測で物事を見るのは


「ぅ…ん…」


俺の思いなんて知ってか知らずか、隣のあおいの寝顔は眉間にシワを寄せてどこか苦しそうに見えた。
眉間を指の腹で撫でる。


「…バーロォ。寝てる時までんな顔してんじゃねぇよ。もっと笑って…、良い夢見やがれ」


眉間をつつくと、ふわり、あおいが微笑んだ気がした。
それだけでなんかもう今日が終わってもいい気分だ。
軽く寝返りを打って俺の肩から離れていくあおいに寂しさを感じつつも、着ていたジャケットを肩に掛けてやった。
今度は気のせいなんかじゃなく、あおいは笑顔になっていた。
寝てりゃあ、こんなに楽なのにな…。
あー、でも目覚めちまって眠れねぇなチクショー。
お、あの人トイレか?
あー、こうやって乗客観察もいいな。
つーかアメリカつくまで乗客観察って俺どんだけ暇人なんだよ。


「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」


悲鳴とともに体が動いていた。
何をどうすればいいかなんて、もう本能でわかっている。


「お久しぶりです、目暮警部」
「大きくなったなぁ、って、そうじゃない!キミまだ高校生だろ!!」


高校生だって探偵はやれるさ。


「ちょっとどこ行ってたのよ!だいたい探偵って何!遊びじゃないんだよ!警察に任せておこうよ!」


俺だって遊びじゃねぇよ。
人が1人死んでんだよ。
着陸前にこの謎を


「解けるよ、必ず」
「え、」
「ちょっとあおい!」
「これは遊びじゃないんだよ」
「そうよ、だから警部の邪魔にならないように、私たちは黙ってみて」
「工藤くんに解けない謎はない。…だよね?工藤くん」
「…あったりめぇだろ。俺に解けない謎はない。俺は高校生探偵工藤新一だ」
「うん、頑張って工藤くん」
「おぅ!オメーらは座って待ってろよ!」


ほらな、やっぱりそうだ。
いつでもあおいは俺を肯定してくれる。
ささくれ立ってた心も一瞬で癒される。
そんなことできんの、オメーだけだ。


「ちょっとあおい!乗せないでよ!」
「大丈夫だよ、工藤くんなら」


そんな会話を耳の端で捕らえながら自分の思考の海へダイブする。
犯人は凶器をどこに隠したのか。
アイスピックのようなもの…。
犯人は恐らく今も凶器を所持している可能性が高い。
うん?あの人…。


「おい、蘭」
「なに?」
「オメー、高校生になったんだよな?」
「はぁ?何言ってんのよ」
「じゃあよ、ブラジャー見せてくれ。あれワイヤーついてんだろ?」
「はぁぁぁ!?」
「早くしろよ!こっちだって恥ずかしいんだ!」
「…そうよ。胸の下の位置にワイヤーが左右に一本ずつ入ってるの!」
「そうか!」


やっぱり間違いない、凶器は今も犯人が身につけている。


「犯人はあなたです!」


無事犯人も捕まり目暮警部にも感謝され、さぁ席に戻るぞってところで蘭に服を引っ張られた。


「…んだよ」
「なんだよ、じゃないわよ!推理に必要だったのはわかったけどなんで私のブ、ブラジャー見せろとか言ってくるのよ!」
「はぁ?だってオメーしかいねぇだろ聞ける相手」
「あおいだっているじゃない!なんで私なのよ!」
「オメーさっき見てなかったのかよ!」
「何を!?」
「あおいが俺なら出来るって言って場が和んだだろ!?ブラジャー見せろなんて言ってまたフリだしに戻ったらどうすんだよ!!少しは空気読めよ!!」
「…私にはどう思われてもいいわけね?」
「いやー、蘭ちゃん助かったよ!マジで!」
「………はぁぁぁぁ」


深いため息をついて蘭が席に戻った。
先に席に戻っていたあおいが蘭が最初に座っていた席にズレ、窓際からあおい、俺、蘭の順で座った。


「お疲れさま」
「おぅ」


あおいは事件解決後もさっきと変わらず笑顔で迎えてくれた。
なんか知らねぇけど、いい感じだ。


「やっぱり工藤くんに解けない謎はないね」
「たりめぇだろ」
「うん。…ずっと、頑張ってきたんだもんね。探偵になるために」
「…別に頑張っちゃいねぇけど?」


見慣れた横顔なのに、こんなに近くで見るのはすげぇ久しぶりな気がした。
…いや、気がしたじゃなく、久しぶりだな、実際。


「優作さんも有希子さんもびっくりすると思うよ。工藤くん1人で犯人逮捕に貢献したって知ったら」
「いやー、父さんなんか案外俺の息子なんだ当たり前だ、くらいにしか思わねぇんじゃねぇか?」
「そんなことないって!優作さんも喜ぶと思う」
「そうかぁ?…ふぁぁぁ」


やっべぇ、やっぱねみぃ…。
昨日寝てない上、あおいが肩に寄りかかってきてからぜんっぜん眠れなかったもんな…。


「眠い?って、そっか。さっきあんまり寝てないって言ってたっけ」
「ん?う〜ん、まぁ。」
「着く前に少し寝たら?」
「んー…そう、するわ…」


もうすでに上まぶたと下まぶたが握手しそうだった。
それを見たあおいがおかしそうに笑う。
あー…なんかいいな、これ。


「お休み工藤くん」
「あおい…?」
「何?」
「…どこにも、いくなよ…」


あおいが何か言った気がするけど、俺はそこで意識を手放した。

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bkm

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