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2度目のバースデー


誕生日直前の事件


快斗が新一に嫌がらせプレゼントを送りつけた日から時が流れて、…いや、本人的には嫌がらせでもなんでもなくほんとに新一の今後を心配してのことらしいけど。
その日から時が流れて、連休直前の5月1日。
今日もつつがなく授業が進んでいる。


「早希子ちゃんほんとに良かったの?」


最近青子から言われる言葉。
チーム江古田は受験生に配慮し今回の連休でのキャンプを最後に集まりを自粛するらしい。
最も「みんなで集まる」を自粛するだけであって、個々には集まるんだろうと思うけど。
そのため今年の5月4日は快斗と2人きりではなく、チーム江古田と2年前行ったキャンプ場で過ごす。
青子はそのことをずっと気にしていた。


「うん、いいよ!みんなと過ごせるの私も嬉しいし!」
「…ならいいけど」
「楽しみだね!」
「…うん!」


最も快斗は「俺が1番最初に言うの!」とか言う理由で3日からうちに泊まり込む気らしいけど。
そんな感じに私の今年の連休の予定は埋まったわけだ。
ちなみに新一は蘭と健全的に遊園地デートだそうだ。
お母さんもロスに戻ったし、正直なところ私も快斗同様ドキドキお家バースデーになるんじゃないかって思ってた分、あの2人らしくて笑えた。
…だんだん思考回路が快斗に染まってきたような気もするけど、そこはスルーしとく。


「ええーっと、今日の3時間目は、と、」
「3時間目は英語!」
「ありがと、加瀬くん」


今日は日直で日誌を書かなければいけない。
もう1人の日直の加瀬くんと放課後少し残って日直の仕事を片づけている。
ちなみに快斗は凝りもせず生徒指導室に呼び出されている。
終わったらすぐ来るから!と涙ながらに生徒指導室に引きずられて行った。


「後はー、今日の出来事?何かあったっけ?」
「黒羽が来なくて静かでした」


黒板を綺麗にした加瀬くんが私の席の前の席に座りながら言った。


「ははっ…、ごめんね快斗煩くて」
「別に工藤さんのせいじゃねぇじゃん!」
「え?いや、うーん…」
「アイツ1人で煩いだけだろ?」


いくら快斗とはいえ、万人に好かれるわけではない。
…加瀬くん、快斗が嫌いなのかな?
ちょっとだけそんなこと思った。


「つーか長いよね、黒羽と。どのくらい?」
「うん?つきあってる期間てこと?2年になるよ。1年の夏からつきあってるから」


そう思うとほんとに長いよな…。


「飽きねぇ?」
「え?」
「それだけの期間、黒羽と一緒で飽きねぇ?」
「…べ、つに、飽きない、よ?」
「…ふぅん」


嫌いなのかなじゃなく、嫌いなんだな、きっと…。
まぁ…、このクラスの人たちが快斗に抱く印象悪いと思うけど。
…1人ロミジュリ事件から。


「もったいねぇ」
「え…、」


それまで頬づえついてこっちを見てた加瀬くんが、その手を私の髪に伸ばしてきた。


「工藤さん美人で優しいってめちゃめちゃモテるのにアイツでいいわけ?」
「…え、や、私、は、別に」
「しかもプロのマジシャンとか地に足ついてねぇ夢見てるような奴苦労するだけだろ?」
「…快斗は地に足がついてないわけじゃ」
「同じ男ばっかじゃなく、他の男も見たら?」
「…私は別に」
「例えば俺とか」


グイッ、って。
それまで髪を梳くように動いていた手が止まったかと思ったら、毛先を思いきり引っ張られた。
何事かと思ったのが先か、「何か」が触れたのが先か、自分の中ではわからなかった。


ガタンッ!!


クチビルに何かが触れた。
と思った瞬間、教室の入り口の方で物凄い音が響いた。
バッとそちらを向くと、床に転がった机と、明らかに怒っている


「快斗…」
「帰るぞ」


私たちのいる場所まで来て、私の手首を掴んで快斗が歩き始める。


「ち、ちょっと待ってよ、私っ」
「工藤さん、日誌は俺が出しとくよ。また明日ね」


その言葉に快斗が立ち止まり1度だけ加瀬くんを睨み付け、また歩き出した。


「ね、ねぇ、快斗!ちょっと待って!手痛い!」
「…」
「快斗!」
「…」


こうなった快斗はほんとに話なんて聞かない。
クチビルを少し噛みながら、半ば引きずられるように手を引く快斗について学校を後にした。
快斗は一言も話すことなく、黙々と歩いた。
方向的に快斗の家に向かってるんだろうと思うけど、全く振り返ることもなく、ただ黙って歩き続けた。
快斗のコンパスと私のコンパスとじゃ長さが違うわけで。
半ば引きずられるように歩いていた私は目的地に着く頃には軽く息が上がっていた。


「入って」


結局1度も私の顔を見ることもないまま、快斗の家につき、鍵を開けた快斗から中に入ることを促された。
…正直入りたくない、っていう選択肢が今の私に与えられるはずないことも知っていたため、黙って言う通りにした。


「…お邪魔します」


ガチャン


私の言葉とほぼ同時に玄関に鍵をかけた音が響く。
…ああ、この快斗をどうやって落ち着かせよう…。


「えっ、」


そう思った瞬間、後ろから突き飛ばされ床に倒れ込んだ。
床にぶつかる。
そう思ったけど、倒れ込む直前、快斗に体を抑えつけられ、私自身には何も衝撃はなかった。


「…っちょ、…快、斗っ」


衝撃はなかったんだけど、同時に快斗が覆い被さってきて、噛みつかれるんじゃないかってくらい荒く長いキスをされた。


カチャカチャ


辺りに響くのは口の端から漏れる吐息だけで、ほぼ無音の空間で快斗がベルトを外す音が聞こえた。


「快斗止めてっ!」
「…」
「快斗っ!!」


私の声を聞き入れる気もないらしい快斗は、そのまま事を進めた。


「っ!快斗!痛い!止めてっ!快斗っ!!」


前戯も何もあったものじゃない私は、快斗のこの無理矢理の行為に初めての時ほどじゃないにしろ独特の痛みと、言い知れない感情に包まれた。


カタン


1人満足したらしい快斗は、小さな吐息と共にその動きを止めた。
今だ何も言わずに、ゆっくりと私から離れていく快斗に、涙が止まらなかった。


「サイテー!!」


バチン、と。
床から起き上がって真っ先に快斗の頬を叩いた。
その時ですら、快斗は私と目を合わせようとしなかった。


「…どいてっ!!」


悲しいのか頭に来たのかわからない。
ただ、今、快斗と一緒にいたくなかった。
私の上にいた快斗を突き飛ばして、快斗の家を後にした。

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