Clover


≫Clap ≫Top

最後の夏


夏の始まり


「え?ロスに行く?」


私も燃えたスポーツ大会も終わり、明日から夏休み!って時。
今年は海に行けるかなぁ?とか思っていたら、快斗から予想外の言葉が返ってきた。


「な、なんで?なんでロスに行くの!?」
「なんで、って、卒業前に出来ることはしときてぇから?」


それイコール遊びに行くんじゃなく、マジシャン黒羽快斗として、本格的に動き出すと言うこと。
それは快斗にとって良いことなんだけど、


「急じゃない?」
「そうか?有希子さんとも相談して夏休みの間にいろいろと顔合わせさせてもらうことになってさ」


いや、あなたとお母さんの間じゃ急じゃないのかもしれないけど、全く聞かせれてない私としては物凄く急なことなんですけどっ!


「ど、」
「うん?」
「どのくらい行ってるの?」
「まるっと1ヶ月」
「いっ!?」


ヶ月行ってるなんて、夏休みまるまるロスにいるってことじゃないっ!!


「しかも聞いてくれるか?」
「え?」
「俺に気遣ってくれた有希子さんが大魔王をイギリスに送り込んでくれたおかげで、あの人と顔合わせることなく1ヶ月過ごせそうなの!」
「…そう」


あんた気にするところはそこなの?って全力でツッコミたい…。
高校最後の夏休み、まさかの遠距離だなんて…!


「オメー塾だっけ?」
「…一応夏期講習は受けようかと」
「ま、頑張れよ!」


俺も頑張るし!とか言ってくれちゃってるけどさ。
一昨年は大魔王に邪魔されて、去年は大喧嘩して行けなかった海、プール。
私、一生この人と海に行ける気がしないわ…。


「快斗今頃ロサンゼルスかぁ…」


夏期講習は青子と宮本くんの3人で受けることにした。
というか、青子と宮本くんが受ける夏期講習に便乗させてもらってるだけだけど。
受験生なだけあって、丸1日講習があるわけで。
お昼休憩中3人でご飯を食べてたら青子がポツリと漏らした。


「そうね。今頃トップレスビーチやヌードビーチで頭やられてるかもしれないね」
「…工藤さんなんかピリピリしてるね」
「快斗出国前日にロス行き言ったらしいから…」
「え?そうなの?俺7月の初めくらいに聞いたけど?」
「えっ!?そうなの!?」
「あぁ…。なんかいつものようにうちに来たんだけど、その日は菓子箱持ってきて何事かと思ったら『俺がいない夏の間、早希子を頼む』って言われたんだけど」


あの男、そんなことしてる暇があったら私にロス行き話そうとは思わなかったわけ!?


「宮本くんも受験生なのにごめんね」
「いや、なんかこっちこそ黒羽が自分勝手でごめんな」
「ううん、なんかもうさぁ」
「俺はもうさ、」
「「あぁいうものだって思ってるから…はぁ…」」


同時にため息を吐いた私たちの隣で、青子が苦笑いしたのが見えた。


「まぁ快斗も遊びに行ってるわけじゃないしね?」
「まぁ…、そうだけど…」


ピリリリリ


「あ、俺だ」
「…あれ?宮本くんスマホにしたの?」
「そー。調べ物するのに、いちいちパソコン立ち上げるより便利だと思ってね」


周りが少しずつスマホにしていってる。
この間会った時、新一もちゃっかりスマホに変えてたな…。
私も変えようかなぁ…。


「あ、黒羽からだ」
「「え?」」


宮本くんのその言葉に、青子と2人宮本くんの手元にあるスマホを覗き込んだ。


「えーっと…、日本の学生諸君。今日も勉強頑張ってるかー?俺もこっちで頑張ってます!1日勉強を頑張ってるキミに俺からのプレゼント!これで熱い夏を乗り切ってくれ!で、画像が…」
「………」
「………」
「…あ!そ、そう言えば午後からって」


ガシャン!!


「あーっ!!俺のスマホッ!!!」
「…買って返すわ」
「ちょっと和樹くん今の写メ何!?」
「えっ!?し、知らないよ俺!これは黒羽がっ!!」
「まさか青子に内緒でそんな写真ばっかり見てるんじゃっ!!」
「ち、違う違う違うっ!!俺はそんなことしない!それはホラ黒羽がっ!!」
「何、快斗ならそんな写真ばっかり見てそうってこと?」
「えぇ!?そんな工藤さんまでそこに引っかからないでっ!!」
「かーずーきーくん!!」
「俺のせいじゃないってっ!!ほら午後の講習始まるからっ!」
「あ!待ちなさいっ!和樹ーーー!!!」


そう叫びながら青子が宮本くんを追っかけていく。
後に残ったのは私と、私が地面に叩きつけて少しヒビが入った宮本くんのスマホだけ。
ピッ、とディスプレイに手が触れると、それまで黒かった画面が彩り鮮やかになる。
そこには、ニヤけ顔全開で口元だけ写ってる快斗の横顔と、そしてその後ろにはトップレスの金髪のお姉ちゃんズが写っていた。


ピリリリリ


今度は私の携帯が鳴って、取り出す。


from:快斗
sub :愛しの早希子ちゃんw
本文:勉強がんばってね!僕も頑張りますっ!


そして送られてきた写メは、黄昏色に染まったマジックキャッスルの入り口の前でピースしてる快斗らしき人物の手だけ写ってるものだった。
…随分と温度差のあるメールを送ってくれるじゃない。
あの男、帰ってきたらただじゃおかないんだから…!
こうして、高校最後の夏休みが始まった。

.

prev next


bkm

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -