Clover


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負けず嫌いのスポーツ大会


自分の手で


「近藤さんが指で1って出したらコート向かって右が、2だったら左、それ以上だったら後衛がアタック。わかった?」
「え、私そんな高度なトスあげれな」
「近藤さん」
「う、うん?」
「出来ないなんて、言わないよね?」
「…………頑張ります」
「お願いね」


自分でも普段滅多にお目にかかることのない闘争心に火がついた私は、クラスメートもといチームメートを巻き込んで勝ちに行く決断をした。


「で、でも私ほんとにそんな高度なトスはっ!」
「…とりあえず工藤さんに出しておけば間違いないんじゃない?」
「今の工藤さんならどんな球でもアタックできると思う…」


そんなチームメートの声も全く聞こえることなく、私の顔面出血レシーブのために中断していた試合を再開させるべくコートに戻った。


「近藤さんっ!」
「は、はいっ!」


バシィッ


「工藤さんナイス!」
「どんどん上げて!!」
「…はい」


セッター役の近藤さんが泣きそうな顔で頑張っていたなんて知る由もなく、どうやったらこのチームをぎったんぎったんに叩きのめせるか真剣に考えた。


ピピーッ


「第1セット25対23で3-A!」


私の闘争心に火がつくのが遅かったのか、ギリギリで第1セットを取る。
…これじゃまだまだ気が納まらない。
この試合、第3セットはまた女子の出番だ。
男子が第2セットを「落としたら」もう1度出番が回ってくる。


「工藤さんお疲れ!」
「あとは俺たちに任せて!絶対勝つし!」
「え?負けていいよ?」
「「「え?」」」


あの子たちを叩きのめすなら、自分の手でしたい。


「じゃないとおもしろくないしね」
「「「え、」」」


男子に勝たれたら、私の手で叩きのめせなくなってしまう!
顔面レシーブの仇くらいは、自分で取るつもりだ。


「早希子ちゃん、」
「あーちゃん、どうしたの?」
「う、うん、あっちに快斗が、」


………………私の口内が錆びた鉄の味になったのも、元を正せば…。
1度目を伏せてから青子の指差した方に目をやった。


「!?」


この距離からでも快斗がびっくぅと体を震わせたのがわかった。
…でもここで快斗に勝ってもらわないと困るのよね。


「不戦敗だ、不戦敗!」
「…はぁ?なに言ってんだ、お前?」
「何じゃねーよっ!もう負けでいいだろ!?うちのクラ」
「快斗」


クラスメートと話している快斗の側に行くと、いかにも「恐る恐る」という感じで私の方に振り返った。


「ナ、ナンデスカ?」
「試合、勝ってね」


その言葉に背筋をピッと正した快斗を確認した後で、チームメートのところに戻った。
しばらくして青子も私の隣にやってきた。
…あれ?


「あーちゃん?」
「なに!?」
「…なんか顔色悪いけどどうしたの?」
「え!?な、なんでもないよ!青子元気、元気!」
「そう?ならいいけど、」
「そ、それにしてもすごいね!早希子ちゃん大活躍!」
「ああ、うん。ありがと。でもこんなんじゃまだダメ」
「え、」
「もっとぎったんぎったんにしないと気が納まらないわ」
「そ、そうなんだ…」


青子の笑顔がひきつってるなんて気づきもしない私は、試合開始のホイッスルが鳴り響いたコート上を見る。


「何やってんだよ!ちゃんと拾えっ!!」


コート内では快斗が若さでアタックしてくれるようだ。


「か、快斗は何でもソツなくこなすから凄いよねぇ!」
「ソツなくじゃ困るの。勝ってもらわないと」
「…そうだね…」


まぁ快斗のヤル気スイッチも入ってるみたいだし、大丈夫だろうけど。


「そ、それより!」
「うん?」
「さっきボールぶつけたところ、少し赤くなってるから冷やした方が、」
「ああ、いいのいいの。今冷やしたら怒りまで冷えそうで嫌だから」
「…そう」


人の顔面にボールぶつけた償いは、絶対させるんだから…!


ピピーーー


「第2セット25対7で3-E!」


快斗の活躍で、第2セット3Eが圧勝した。
試合後の快斗を見たら、汗をかくほど動き回ったようで手で軽く拭いながら小さく息を吐いていた。
…珍しい。


「快斗」
「えっ!?な、なに!?」
「お疲れ様」
「…俺頑張ったデショ!?」
「うん、カッコよかったよ」
「だよね!?俺は俺に出来ることをしたよね!?」
「そうだね」
「早希子ちゃんっ!!」


あっせだくで抱きついてこようとする快斗をするりと避けた。


「でも、」
「え?」
「勝つのはうちだからね」
「……………ガンバッテクダサイ」


ピピーッ


「第3セット始めます。両チーム前へ」


快斗の声援を浴び再びコートの上に立った。

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bkm

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