Clover


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進路、決定


迷子の答え


「じゃあそういうことで、今月中に結論出すんだぞ?」
「はい、失礼します」


5月も後数日で終わるって時。
当たり前と言えば当たり前なことで担任に呼び出された。


−お前メイク学校志望なのはわかったが、結局どの国のメイク学校に行く気だ?−


そう。
フツーならどの県のメイクスクールかで悩むんだろうけど、無駄に親がお金を持っていると、まず行きたい学校のある国を選ばなければいけない。
イギリス、フランス、イタリアもちろん日本国内だって選択肢の1つだ。
そして、アメリカ…。


−どうせなら一緒にアメリカ行こうぜ!−


快斗は今でもそう言うのかな?
でも私は、


「終わった?」
「きゃあ!?」


ボーっと考え事をしながら教室に向かっていたら快斗がいきなり視界に入ってきた。
び、びっくりした…。


「なに?担任なんの話?」
「ああ、うん。テスト結果が、ちょっと…」
「え?オメー中間やばかったっけ?」
「ん?うーん、進学目指してるならヤバイ、かなぁ?」
「ふぅん…。んじゃ、俺が教えてやるよ!」


この人私と一緒に遊んでたはずなのに、なんでいつもいつもテストは90点以上なんだろう…。
理不尽極まりないわ…。


「は?進路?」
「うん。哀ちゃんは、志保ちゃんに戻ったらどうするの?」


いつか電話禁止令が出されるんじゃないかってくらい、何かあると哀ちゃんのところに電話するのが当たり前になってきていた。
…だってこういうことに関しては特に園子は頼りになんないし、蘭に話すと言わないだろうけど新一に漏れそうだし、青子に話すと快斗に漏れそうだし…!
消去法で哀ちゃんしかいないんだものっ…!!


「普通に生きていくけど」
「…そう」


でもたまにこの消去法に疑問を感じるときがある。
…意外と友達運ないのかもしれないわ。
いや、がっつり濃いのがあるんだろうけど、狭すぎてたまに切なくなる。


「大学」
「え?」
「…以前飛び級で卒業したから今度はその他大勢と同じように大学に行って普通に学生しようと思ってるくらいよ」
「へぇー、大学!どこの?」


哀ちゃんなら早稲田とか慶応とか?


「ケンブリッジ」


…甘かったわ。
この人、若干18歳にしてAPTX4869の開発者だった…。
でもケンブリッジってことは、


「イギリス、かぁ…」
「それが何?」
「んーん…、別に…」


3年に上がる前にあっちに戻ったから、イギリスには白馬くんもいる。
イギリス…。


「あなたイギリスに興味を示すより、アメリカに興味を示してあげた方がいいんじゃない?」
「え?」
「あら、知らないの?」
「なに、を?」
「奇術の殿堂、ハリウッドのマジックキャッスルで日本からのサラブレッドがマジシャンメンバーになるって噂」
「…それ、って、」
「彼、あなたのお母さんと随分懇意にしてるみたいね?ナイトバロニスお墨付きのマジック界のサラブレッド。ネットじゃちょっとした有名人よ?」
「…そう」


快斗が、私の知らないところで着実に夢への道を歩み出している。


「さすがとでも言うのかしらね?自分が一番高く売れる売り出し方をよく知ってるわ」


私が千影さんとメル友になったように、お母さんも快斗とメル友になったって聞いたのは去年の秋が終わろうとしてた頃。
母親って、子供の恋人と仲良くなりたいのかな?なんて思ってた。
快斗は私の母親だから仲良くなったのもあるかもしれない。
でも、


−自分が一番高く売れる売り出し方をよく知ってるわ−


打算的なことが嫌なんじゃない。
人生、時として打算は必要だもの。
快斗がマジシャンとして成功するために必要なら、どんなコネも使ったらいい。
だからそれは構わないんだけど…。


「それで?」
「え?」
「あなたはどうするの?置いてけぼりの迷子さん?」


哀ちゃんは伊達に大人の世界で生きていたわけじゃない。
たまにすごく、痛いところをついてくる。
快斗が、私の知らないところで夢に向かって着実に動いていたことが、また1人、置いていかれたような気分になった。


「そう…。彼にそれ話したの?」
「ううん、まだ確定じゃないし…」
「でもほぼ決まり、でしょ?」
「…」
「あなたが私に打ち明けてくるなんて、意思が固まったからでしょう?」
「…哀ちゃんて、」
「何?」
「痛いとこつくね、ほんとに」
「褒め言葉としてもらっておくわ」


まだ確定じゃない。
でも、打算的に、自分の未来のために、使えるコネは使う。
それは快斗もしていること。
だから、私は、きっと…。

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