Attack On Titan


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ラブソングをキミに


反撃の狼煙 4


「フィーナ。」
「エルヴィンさん、お帰りなさい。どうでしたか?」


翌日、エルヴィンさんが王都から帰ってきた。
…「どうだったか」なんて聞いたけど、


「…すぐに紙とペンを用意してくれ。今から言う内容を至急リヴァイに伝えるんだ。」


その表情を見れば、一目瞭然。
…私たちはこの瞬間、人類最高権力である王家、そして王政に牙を剥くこととなった。


「囮作戦、です、か?」


エルヴィンさんの指示はこう。
エレンとクリスタ…いや、ヒストリアが狙われている今、2人の囮を立て、「誰が狙っているのか」を明確にすること。
そしてエレンとヒストリアを守ると同時に、壁の秘密を知っているウォール教、その周辺には何が潜み、何があるのかを洗い出し、あわよくば壁の秘密を知るレイス家の当主、ロッド・レイスの場所まで、私たちを導いてもらうこと…。


「エレンの身代わりはジャンで良いとして、ヒストリアはどうするんですか?彼女と似ている女兵士なんて、」
「いるじゃないか。」
「え?」
「彼女と同じく金の髪が綺麗な中性的な兵士が104期に。」
「…………アルミンを、ヒストリアの身代わりにするつもりですか?」
「君が身代わりになってもいいんだが?」


書き綴っている手を止め、エルヴィンさんに目を向けるとにっこりと微笑まれていた。


「………追い詰められてるわりに、楽しそうですね。」
「生来の博打好きだからだろうな。これは私の人生の中でも1番大きな賭け事になるかもしれんしな。」


エルヴィンさんはそう言うと、片手でシャツのボタンを1つ、外した。


「…書き終わりました。」
「そうか。直に伝令のための兵士がやってくる。その兵士に渡してくれ。」
「はい。」
「…あぁ、だが、リヴァイにそれを渡す前に『これは強制ではない。私を、そしてこの組織を信じる者だけついてくるように』と、伝えるよう言ってくれるか?」
「わかりました。」


エルヴィンさんの言葉通り、その日の昼過ぎ、隠れ家からの伝令係がやってきた。


「フィーナさん。」
「ニファ、お疲れ様。」


エルヴィンさんのところに、伝令係を常駐させた方が効率が良いと思うけど、いつ何時誰にどこから何が漏れるかわからない、そういうリスクがあるため、エルヴィンさんの周りには本当に少数の兵士しか置かない、と言う方針になり、私以外は見張りとしている兵士1人と、隠れ家との伝令係として任命されたニファがエルヴィンさんの執務室兼寝室があるここ、兵舎の幹部階に来るくらいだった。


「エルヴィンさんからリヴァイさんへの伝言です。『これは強制ではない。私を、そしてこの組織を信じる者だけついてくるように』この手紙を渡す時に、そう伝えてほしいそうです。」
「はい!わかりました!」


ニファは、オルオ、ぺトラと同期の私から見たら「後輩」に当たる兵士だ。


「フィーナさん。」
「はい?」
「…怪我、どうですか?」
「え?………順調に回復中、です、が?」
「それは良かったです。」


ニコッ、とニファは1度笑った後、じゃあもう行きます、と、隠れ家に向け馬を走らせた。
…………そんなに仲が良い兵士じゃなかったけど、私の怪我は、そんなこと気にされるくらい、酷かったんだろうか…。
いや、確かに酷かったけど…。
なんて思いながら、小さくなるニファの背中を見送った。




「兵長、団長からです!」
「ニファか。ご苦労だったな。寄越せ。」
「は!団長からこれを兵長に渡す際に『これは強制ではない。私を、そしてこの組織を信じる者だけついてくるように』との伝言を預かってます。」
「……………あぁ、確かにコレは信じるバカしか使えねぇな…。ニファ、お前はこれからどう動く?」
「ハンジ分隊長と合流します。」
「そうか。ならばこっちをハンジに見せてくれ。」
「はい!」
「お前も聞いたかわからんが、俺たちは今夜この隠れ家を出る。今後どこに伝令をするかはハンジに確認しろ。」
「はい!」
「……………なんだ?もう行っていいぞ。」
「あ、いえ…、任務とは関係ないんですが、」
「あ?」
「フィーナさん、順調に回復してるようなので、一応お伝えしておこうかと…、」
「……………」
「(やばい、眉間にシワが増えた!)よ、余計なお世話、でしたか?」
「…………顔の腫れは引いていたか?」
「あ、はい。青あざが所々ありましたが、腫れ自体はだいぶよくなっていました。」
「そうか…。」
「(やっぱり兵長も普通の男の人なんだよなぁ…)」




「ニファにエルヴィンさんからの指示を渡したので、陽が落ちる前には隠れ家のリヴァイ班に伝わるかと思います。」
「そうか、助かる。」


指示書がリヴァイさんの間も無く手に渡るだろうことを伝えに行くと、エルヴィンさんは王都に行った時よりもずっとラフな格好で部屋で次なる作戦を練っていた。


「あの、」
「うん?」
「…リヴァイ班の動向はわかりましたが、…こちらはどう動くんですか?」


私の言葉に、エルヴィンさんのガラス玉の瞳が鈍く光ったような気がした。


「クーデターというものは、1人では起こせない。」
「はい。」
「なので、力を貸して貰えないかと頼みに行くつもりだ。」
「…誰に?」
「我々にとってはとても貴重かつ有益な人材にだ。」


それが誰か、と言う言及は避けたけど、エルヴィンさんにはその「あて」がある、と言うことで…。


「だがまぁ、」
「はい?」
「それにはある程度こちらもコマを進めなければいけない。」
「…」
「エレンの硬質化実験を行ったことで、盛大に我々の反撃の狼煙はあがった。」
「はい。」
「もうそろそろ…早ければ今夜にでも、その反応が出るだろうな。」
「…」
「今はその反応次第、というわけだ。その結果が出るには多少、時間がかかるだろうから、その間君はその怪我を治すことに専念しなさい。」
「…はい。」


エルヴィンさんは言う。
私たちの動きを「コマ」と…。
そのコマはどこまで進むのか。
その方向に道はあるのか。
そしてその道は、本当に正しいのか…。
結果は誰にもわからない。
それでも私は、1度あげたこの反撃の狼煙を、信じて進むのみだ。
この組織を、団長を、信じて動くのであろうあの人のために…。

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