Attack On Titan


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ラブソングをキミに


絶望への前奏曲 2


「お、は、よう、ござい、ます…。」


私がこの部屋に戻ってからしばらく…。
いろいろと思い悩んでいたあの数日間を境に、たまに(本当に本当にたまになんだけど)リヴァイさんのいつもの行動に、…それは母性とでも言うのか、可愛さや、…愛しさを、感じるようになった。
その行動の1つに、


「リヴァイさん、起きてください。」
「………んー……」


この、寝起きの体勢も含まれている。
もともとリヴァイさんは、気がつくと私を抱き枕のように軽く抱きしめて寝ているところがあったけど、あの後からは、


「ね、みぃ…」
「…でも、あの、離して、もらわない、と、動けない、の、で、」


毎日じゃなくても、「軽く」どころか、わりとがっつり、私を抱きしめて眠るようになった(しかもたまに足まで絡めてる時があって本当に身動き取れない…)
そしてそれだけ密着して眠るようになって気づいたこと。


「やっぱり、ベッドもう1つ運んできて、別々で寝ませんか?」
「……毎日毎日懲りねぇ奴だな。その話は済んだはずだ。」


リヴァイさんは、眠りがとても浅いという事。
どのくらいと言うと、私の寝返り1つで目を覚ますくらいのようだった。
それはつまり、私が寝返りを打つたびにリヴァイさんの安眠妨害をしていたわけで…。
リヴァイさんは、私がいればそれだけ、寝不足になる、ということだ。
それに気づいた時、ナナバさんの部屋に行くと私が言ったら、物凄い形相で睨みながらなんか言ったかおい?と言われ、思わず何でもないと、言ってしまいそのままあやふやになってしまった。
…でも、リヴァイさんが朝が弱いのは、実はあまり眠れてないからなんじゃないか、って思ったら、それはもうなんとか改善しなければ、と思うわけで…。
ナナバさんの部屋に行かずとも、別々のベッドで眠るということを提案したら、それすらも、この狭い部屋のどこに置く気だ?と一蹴されるに留まった(ちなみに曲がりなりにも兵団幹部階にあるこの部屋は、狭くてベッド2つ置けない、なんてことない広さだ)
それは私の自惚れがふんだんに入っていることだろうけど、リヴァイさんにとっては、寝不足解消・安眠より私の温もり、なんじゃないか、って。
そこに思考がたどり着いた時、なんて可愛い人なんだろうか、って、思ってしまった。
…それに、はっきりと聞いたわけじゃない、けど、突然安眠妨害し始めたわけじゃなく、それは最初からだったはずなわけで…。
つまり、私がリヴァイさんの部屋で生活を共にするようになってからずっとのことだったはずで…。
当初そこに恋愛感情と言うものが無かったとしても、私が気づかなかっただけで、私はずっと、この人から大切にされていたんじゃないんだろうか、って…。
そう思ったら、可愛いや、愛しいなんて言葉では言い表せないほどの想いが、胸を覆った。


「でも、ちゃんと寝ないから朝起きれないんですよ?」
「…俺はもともと朝に弱ぇんだよ。毎日同じこと言ってんじゃねぇ。」


フン!とでも言うかのような顔で起き上がったリヴァイさん。
ここ最近、毎朝繰り返されるそのやり取りに、苦笑いしながら私も起き上がった。


「グンタさん?どうしたんですか?こんなところで…。」
「…あぁ、フィーナか…。」


いつものように調査兵団内の敷地で訓練をしている時、トイレに行きたくなり、建物の中に入った。
用を足して訓練に戻ろうと廊下を歩いていた時、調理室に入っていくグンタさんが目に入った。
珍しい組み合わせだと、調理室を覗き込んで声をかけてみた。
私を確認したグンタさんは、どこか浮かない顔をしていた。


「フィーナは、」
「はい?」
「…コーヒーの淹れ方は知ってるか?」
「……はい?」


物凄く真剣な顔で聞いてくるから何かと思ったら、コーヒーの淹れ方について聞かれた。


「…その粉を、カップに入れてお湯を注ぐんですよ、ね?」
「いや、そうなんだが…。」


グンタさんの手にはコーヒーと書かれている瓶が握られていたので、「その粉」と言いながら手元の瓶を指さした。
…ん、だけ、ど、どうも顔が浮かなかった。


「どう、か、したんです、か?」
「……実は兵長にコーヒーを淹れているんだが…、」
「リヴァイさんに?」
「誤解しないでもらいたいのは、兵長は決してマズイだなどとは言ってはいないと言うことだ。…だが、こう…、飲む時に眉間のシワが深くなるものだから、もしかしたら、と…。」


…………グンタさん、本当に真面目だなぁ、って。
手元のコーヒーの瓶を見ながら、本当に困った顔をしているグンタさんに、偉いなぁ、とか、すごく他人事なことを思っていた。


「俺の前はエルドが兵長のコーヒーを淹れてたらしいんだが、エルドも兵長の眉間のシワが気になったらしく、ついにコーヒーを止めて茶を出すようになったと言っていた。…だが、兵長はコーヒーを欲しているからそれは、なぁ…?」


…つまり、自分より先にリヴァイ班に入っていたエルドさんが逃げたからとばっちり受けてるんだ…。
グンタさん、真面目すぎる分、苦労してるのかもしれない…。


「コーヒー、」
「え?」
「…グンタさんが淹れるところ、見てみましょうか?」
「…それで何か変わるか?」
「たぶん…?」


大丈夫か?と首を傾げながらも、コーヒーを淹れる準備をするグンタさん。
たぶんきっと、原因は…。


「あ!ほら、やっぱり!」
「え!?」


グンタさんはコーヒーの瓶の蓋を開けて、おもむろにスプーン1杯分の粉を取り、カップに入れようとした。


「たぶん、味が濃すぎるんですよ。」
「え…?だが、スプーン1杯分だぞ…?」


グンタさんからコーヒーの瓶を受け取り、リヴァイさんが飲むであろうカップに粉を入れる。


「リヴァイさん、いっつもこーんな顔してるから、苦いコーヒー飲んだらもっと酷くなるんじゃないかって、こっそり量減らしたんです。」


こーんな、と言いながら、眉間にシワを作りながら話した。


「いきなり減らすとバレてしまうから、少しずつ減らして、今はこのスプーンで半分くらいの量の粉で飲んでるんです。」
「…ほぅ…。」
「部屋ではそうやって淹れてるから、きっとグンタさんが淹れたコーヒーが苦いんですよ。」


別にそれであの眉間のシワが消えるとは思っていないけど、ただなんというか…、気持ちの問題で、濃ーーーい!ブラックコーヒーを飲むよりも、少し薄い方がシワも減るんじゃないかって言う、苦肉の策だ。
それに胃にも優しそうだし。


「じゃあ少し薄めたものを、」
「あ、待ってください!お湯を淹れた後に、ひとつまみだけこ、れ、を、」
「…………砂糖を入れるのか!?」
「はい。あ、でも、ほんの少しだけですよ?バレたら怒られそうなんで…。」
「…いや、でも、本人が何も入れずにブラックで、と言ってるのに、」
「けど部屋ではいつもこうですよ?」


私の言葉に、グンタさんはうーん、と悩みながら砂糖が入っている瓶を見た。
…………だって、砂糖入れた方が、なんとなくこう、優しくなりそうな気がする、って言うか…、それは「私の」気持ちの問題なんだけど、ね…。


「本当にこれで大丈夫なのか?」
「はい、たぶん。」
「……わかった、フィーナを信じよう。」
「はい。」
「それにしても、」
「はい?」
「フィーナは兵長のことにやたら詳しいんだな。今まで兵長の班にいたことないんだろう?」


グンタさんがなんで?って顔で見てきて、そこで初めて、しまった、と思った。


「……ほ、ほら、私、こう見えても、グンタさんたちよりここ長い、し?」
「あぁ、それもそうだったな。」


助かったよ、と言ってコーヒーの入ったトレイを持っていったグンタさん。
………………今、すっごく危なかった気がする…!
グンタさんじゃなく、ぺトラあたりだったら本当にまずかった気がする…!
今度からもっと慎重にならないと、と、心に誓った。




「兵長、コーヒーお持ちしました。」
「あぁ、そこに置いてくれ。」
「はっ。」
「…………グンタよ。」
「はい。」
「これは誰が淹れた?」
「…自分が淹れましたが(やっぱり砂糖がまずかったんじゃ…!)」
「お前が?」
「はい。あ、でも、フィーナに淹れ方を教えてもらって、」
「…あぁ…。」
「い、淹れ方、悪かったでしょうか?」
「いや…、今までで1番良い。」
「…あ、ありがとうございます!」
「エルドたちにも淹れ方教えてやれ。」
「は、はい!(兵長が!兵長が褒めてくださった…!!)」




「グンタにコーヒーの淹れ方を教えたそうだな?」


その日の夜、少し書類整理が残っている、と書類を持って部屋に戻ってきたリヴァイさんに、コーヒーを出した時にそう言われた。


「だ、だめ、でした、か?」
「いや…。だがお前の淹れたコーヒーが1番美味い。」


そう言ってリヴァイさんは特徴ある持ち方で、少しだけ砂糖の入っているコーヒーを傾けた。

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