キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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年末年始の過ごし方


元旦にあり


大晦日と言えば、すき焼き!
手巻き寿司なんて邪道だ!って、思っていたわけだけど。


「私も手巻き寿司がいいんだけど、」
「美味しいですよね!」
「根強い反対意見があって、うちの食卓にお寿司やお刺身上がらないのよ」


こんな形で問い詰められるとは思わなかった…。


「お刺身嫌い?」


もうこの声色は見なくてもわかる。
あおいちゃんは小首を傾げ困ったように俺を見ているんだろう。


「あおいちゃんも嫌よねぇ?好き嫌いする器の小ちゃい男なんて!」
「…嫌いとかそういうことよりも、美味しいのにもったいないなぁ、と思います」
「だ、そうよ?」


依然困ったような声をしているあおいちゃん。
…違うんだ聞いてくれ。
器が小さかろうがデカかろうが関係ない。
それ以外ならなんでもする。
でも本当に魚だけは勘弁してくれ。
…なんてクソカッコ悪ぃこと言えるはずもなく、


「ら、来年、は…?」


なんて言ってしまった手前、お袋が俄然見せなくていいヤル気を見せてきた。
冗談じゃねー!!って思って口論になったところ、


「あ、す、すみません!仲良い親子だなぁ、って思って、」


あおいちゃんの笑顔に毒気を抜かれた気がした。
今のこの展開のどこに「仲良い」要素があったのか。
でもあおいちゃんの一言でお袋との口論はピタリと止んだ。


「来年もお邪魔してもいいんです、か?」


なんでそんなこと言うのか。
良いから言ってるんであって、そもそも駄目だったらそんなこと言わねぇのに。


「ありがとうございます」


ちょっと顔を赤くして、嬉しそうにそう言うあおいちゃんの顔が印象的だった。
食べ終わって後かたづけしていた時、あおいちゃんが手伝うと言ってきた。
客にそんなんさせるわけないし、先に風呂入ってもらうことにして、お袋と2人リビングに残った時。


「ちょっと意外だったわ」


徐ろにお袋が口を開いた。


「何が?」
「あなたがあぁいう子が好みだったなんて」
「…だーから、そんなんじゃねぇって、」
「青子ちゃんみたいな子が好きだと思ったけど、まさかあぁいう子だったとわねー」
「聞けよ、人の話し」
「まぁ見る目だけはあるんじゃない?」


裏表ない素直な良い子だし、とお袋は言う。
俺がそれに対して口を開こうとした時、


「でも、」


再びお袋が言った。


「あなた苦労するわよ」
「え?」
「快斗が思ってる以上に、人を惹きつける子よあの子は。見た目もそうだし、あの性格と家庭環境。これからどんどん大人になって今よりもっと見た目も中身も磨きがかかったら、周りの男共が黙ってないでしょうね」
「…」
「後悔する前にしっかり捕まえておくことね。じゃないとあっという間に横から掻っ攫われるわよ」


じゃあ私は良い酒が飲めそうだし買いに行くから後よろしく、と言ってお袋は出て行った。


「…だから別にそんなんじゃねーし…」


誰に言うわけでもない言葉は、誰もいない空間に消えて行った。
それからしばらくしてあおいちゃんが風呂から出てきた。
さっきとは違うパーカーを着ていたけど、背中部分に細長いのがついてる奴だった。
…なんだあれ?


「それパジャマ?」


そう思って軽い気持ちで聞いたのが間違いだった。


「そう!これサンリオコラボで、友達と一緒に買ったの!友達がキティちゃんとクロミーで、私がシナモン!」


そのパーカーのフード部分にはシナモンの耳がついていて、わざわざフードを被って耳だとわかるようにあおいちゃんは手で持ってポーズを取って見せた。


「…俺じゃあ風呂行ってくるわ」


出来るだけ表情を変えずに部屋から出た瞬間、崩れ落ちるように蹲った。
…これがアレだ。
青子が言ってた「ぐうかわ」って奴だ。
なんだあの生き物。
いいのかアレが存在して。


「…風呂入ろ…」


なんとか気を持ち直して風呂場に向かった物の、あれ?これよく考えたらあおいちゃんが使った直後じゃね?とか思ったら直ぐに風呂から出れるわけもなく(以外省略)


「「「あけましておめでとうございます!」」」


そして年越しカウントダウンも終わり、サッサと部屋で酒が飲みたいお袋の号令の元解散する流れになった。
…けど寝るって言ってもなー、ととりあえずトイレに行った後であおいちゃんに遭遇。
どーしたのかと思ったら眠れないらしく。
まぁ俺もそーだしなー、と2人でリビングで話しをすることにした。
ホットミルクを用意して、取り留めないもない話しをした。
今日のこと、弓道のこと、学校のこと。
そーいや話してなかったと思って青子の話しもした。


「いいよね」
「なにがー?」
「幼馴染。ちょっと憧れる」


前にどこにいたとか、今までどこを転々としてきたとか。
そーいうのは聞いちゃいけない気がして触れずにいたけど、あおいちゃんは少なくとも幼馴染を作れるような環境にはいなかったのだ、と、この言葉で改めて思った。
だんだん口数も減ってきて、眠ぃって思ったのが先か、あおいちゃんの頭が俺の肩に寄りかかってきたのが先かわからないけど。
気がついたらあおいちゃんは俺に寄りかかって寝息を立てていて。
あー、俺もこのまま落ちるな、って思いつつその頭に顔を乗せたら、俺が使ってるシャンプーの匂いとは別の匂いがしたところで完全に意識が飛んでいった。


カシャッ


「あらあらー?こんなところで仲良さそうに何してるのかしらー?」


お袋が喋りだす前にシャッター音しなかったか?
気のせいか?
なんてしゃんとしない頭で思っていたら、


「ひぃぃ!!?」
「うげっ!?」


あおいちゃんに思いっきりミゾオチに正拳突きをされた…。
良い腕してんじゃねぇか…。
そしてその後、お袋がおせち料理を用意して3人で食べてたわけだけど。


「これ美味しい!うちのお母さんと同じ味だ!」


なんてことはない、どこの家庭にもありそうな煮豆に対してあおいちゃんはそう言い、パクパクと箸を進めていた。
「お母さんの味」か…。


「良かったら作り方教えてあげましょうか?」


珍しいこともあるもんだ。
そういうの嫌がりそうな人なのに。
でもお袋はお袋で思うことがあったのか、それともそれだけあおいちゃんのこと気に入ったってことなのか。
お袋の提案にあおいちゃんは顔を少し赤くして嬉しそうに笑った。


「ちゃんと送って行った?」
「おー」


駅まであおいちゃんを送って行った後でのこと。


「あの子ほんとちっちゃくて可愛い子だったわねー」


ニヤニヤ笑いながら俺に言ってくるお袋。
…あおいちゃんは小動物みたいでちっちゃくて可愛い。
それこそネコとかウサギとか。
そういう雰囲気がある。
その見た目をさらに引き立てるようなあの性格。
つい手を貸してやりたくなるような、…貸さなければいけないようなあの空気感。


「昨日母さんが言ったこと、」
「うん?」
「わかるような気は、する」


あの子はきっとモテる。
見た目がどーのじゃなく、あの性格も家庭環境も、あの子を取り巻く全てを含めて、男が放っておくわけがない。
…そもそもうちの母親がコレなんだから、男と言わずに放っておかないんじゃないか?


「素直でよろしい!そんな素直な青少年に追加でお年玉をあげる」


そう言ってお袋はケータイを弄った。
その直後俺のケータイが鳴った。


「他の誰かが手に入れる前にちゃんと自分の宝石箱にしまうことね」
「はぁ?て、どこ行くんだよ」
「新年会ー!」


ほんと自由だな…。
お袋を見送った後でさっき鳴ったケータイを見てみると、お袋からメールが着ていた。
それは今朝の俺とあおいちゃんの寝ているところを撮った1枚。


「…あのババァ…」


なんて悪態をつくものの、見つめるその写真のように、今年も…今年は、このくらい近くにいることが当たり前になれば…、とか。
それが同情からくるものなのか、それとももうとっくにあの子は俺の中の「トクベツ」になっているのか…。
それはまだ俺自身にもわからない。
その写真が俺のケータイの待受になったのは俺以外誰も知らない。

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bkm

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