キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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年末年始の過ごし方


懐柔


「ねぇ快斗」
「んぁ?」
「あなた最近出費増えたみたいだけど、何に使ってるの?」
「…えっ!?」


クリスマスも終わった2日後。
あおいちゃんちの大掃除も無事に終わり、後はワークブック終わらせるだけって時、徐ろにお袋が口を開いた。


「…食費?」


ほぼ毎週米花町に通ってあおいちゃんと遊んでりゃ、そりゃー出費も増えるわけで。
そこを目ざとく突いてこられた。


「…快斗」
「何?」
「あなたもしかして私の情報網、舐めてるんじゃないの?」
「え?」


ニヤリと笑ったお袋に、すげー嫌な予感がした。


「馬鹿みたいに真剣に選んでたらしいじゃない?他校の彼女にやるお土産!」
「青子のチクりじゃねーかっ!!」


あんたが馬鹿なことしてないか青子ちゃん定期的に連絡くれんのよねー、とお袋はケータイ画面をチラつかせながら言った。
何が私の情報網だよ!すげー身近なところからじゃねーかよ!!


「言っとくけど、彼女じゃねーから」
「やだあなた、ほんとにまだその子落としてないの?なっさけないわね!」
「んなんじゃねぇって言ってんだろ!うるせぇな!」
「…へー?そういう態度に出るわけ?」
「あ?」
「来月からあなたに渡してるカード、使用できないようにするわ」
「すみませんでした!それは勘弁してください!!」


生活費を出してもらっている者の弱味に漬け込んだ姑息な発言に、謝らざるを得なかった俺。


「わかればいいのよー。それで?どこの子?どんな子?今どーいう感じなの?」


うちは自己責任の自由主義な家だと思う。
過干渉はしない。
でも興味ある物事に対してこれでもかと言うくらい掘り下げてくる。


「帝丹に通ってる普通の子だよ。すっげー美人とか言うわけじゃねーし、」
「なるほど、あなた可愛い系が好きだったのね」
「…今の言葉のどこにそう取れる文脈があったんだよ?」


ふむふむ、と何かを考えながら聞いてくるお袋。
…これは完全にロックオンされちまった…。


「だいたい毎日のようにその子のとこ行ってるみたいだけど、ちゃんと相手の親御さんに挨拶してるの?」


何気なく聞いてきた言葉。
それはきっと親子間では普通の会話。
…でも…。


「いねーんだよ」
「え?」
「挨拶するような『親御さん』なんて、あおいちゃんにはいねーよ」


俺の言葉に、


「いない、って、なんで?共働きってこと?」


至極真っ当な反応をした。
そこからあおいちゃんちの事情や、今置かれてる現状、なんで俺が休み入ってから毎日米花町に行ってるのかを話した。


「そう…。そういうことだったのね…」


一通り話し終えた俺に、お袋は納得したようだった。


「ねぇ、その… あおいちゃん?年越しはどうするの?」
「どーするって?」
「うちはほら、大晦日は毎年家族ですき焼き食べて一応カウントダウンもして過ごすけど、あおいちゃんはどうやって過ごすの?」


その言葉で始めてその事について考えた。
そーいや、今までどうやって過ごしてたんだろ…。
そして今年はどう過ごすんだろう。
自分にとっての当たり前が当たり前じゃない場合、その日をどう過ごすかなんて、想像がつかなかった。


「なんならうちに呼ぶ?」
「へっ?」
「どーせ、快斗と2人ですき焼きつつくだけなら、あおいちゃん呼んで可愛い女子中学生とお話したいしね」


うちのお袋はたぶん世間一般の型に嵌まった「母親」ではない。
でもまさかそんな人から、こういう言葉を聞くとは思わなかった。


「前にさー、」
「うん?」
「俺がすることは同情なのかって聞かれたことあったから、もしかしたら嫌がるかもしれねーけど、」
「…そうね」
「まぁ…聞いてみるだけ聞いてみるよ」


そう言った物の、タイミングが掴めず結局年越し前日の12月30日。
無事にあおいちゃんの宿題も終わり、一息ついたところで明日の予定を出した。
どこか渋ってる感じがして、あぁやっぱり同情と捉えられて嫌なのかも、なんて思った時だった。


「な、なんっか…緊張?する、なー…とか、さ、」


俺が気にしているところと、あおいちゃんが気にしていたところは全く違ったようで。
…まぁ、そりゃそうだよなーって。
異性の友人の親に会うとか、そりゃ緊張もするだろう。
でも相手は俺の親だ。
緊張なんてするだけ無駄!
誘うことで嫌な思いさせたらなんてそんなの俺の思い過ごしなだけだったと判明したならと、その後なんだかんだと話し合い、無事うちで過ごすことに決まった。


「て、ことだからよろしく」


帰宅後お袋にそう言ったら、お袋は黙って俺を見ていた。


「何?」
「…たった一言誘うだけで何日かけるつもりなのかと思ってたのよ。このまま誘わないつもりなのかと思ったけど、誰に似たんだか随分と慎重な男に育ったこと!」


鼻で笑って俺の前から去って行った。
間違ってもあんたじゃねぇよ、って思っても口にしなかった。
そして当日、無事にあおいちゃんと合流。
うちに連れてきたわけだけど。
息子の俺が言うのも何だけど、お袋は好き嫌いがはっきりしているし、心が狭い人間だと思う。
そのお袋が青子のことは気に入っているわけだけど、あおいちゃんはどうだろうな…。
あの子の性格上、嫌われはしないだろうが、青子ほど気に入られることはないんじゃないかと思っていた。
でも…。


「実際はそんな『オバサン』どころか、すごく綺麗なお姉さんみたいな人だったから驚いちゃって…」


俺も、だけど、お袋はよく人を見てる。
人が使う社交辞令とか、そう言うのはすぐ気がつく。
だからこそわかる。
この子は本当にそう思ってそれを口にした、ってことが。
そして俺がそれに気づいた、ってことは当然お袋も気づいた、ってことで。


「あおいちゃん。今日は自分の家だと思って、ゆっくりして行ってね!」


あ、この人本気で喜んでる。
息子の俺が見てもそう思う笑顔でキッチンに消えていった。
…嘘だろ。
あおいちゃんが嫌われることはないとは思ってた。
けどあの人、今懐柔されたよな?
え、マジで?
この子すごくね?
あの人懐柔出来る女子中学生とかこの世に存在してたの?
待って、これ俺今後この子に何かしようものなら間違いなくあの人出しゃばってこねぇか?
青子だけでもめんどくせーのに、お袋まで口出ししてくんのかよ!
いや別に何もするつもりもねぇけど!
だからってこれはどーなんだって話しで


「快斗くん、どうしたの?」
「いや…、」


けどまぁ、嫌われるよりはいいか。


「うん」


いやでも今後あおいちゃんに何かある度に、あの人の影がチラつくのか?


「わかった」


この子は本当、悠々と俺の想定の範囲外に飛び越えて物事を進める。
まぁ飽きる子といるよりはいいだろう。
今年の締めにそんなことを思った。



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bkm

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