■友達の優しさ
「あんたどーすんの?」
「何がですかね?」
快斗くんの学校の修学旅行も終わった週末に、これでもかー!!って量のお土産を持って快斗くんがうちにやってきた。
この量どーしちゃったのか聞いたら、貰った分はお返しする主義だから!ってもみじ饅頭とかはっさく大福とかすごいたくさんくれた。
でも1番嬉しかったのは「あおいちゃんの黒髪に似合いそう」って言って渡されたグラスビーズのヘアゴムだった。
だってそんな「私に似合いそう」なんてそんな快斗くんマズいってそんな言い方誤解しちゃうそんなそんな私と快斗くんはまだまだ友達成り立て
なんて考えていた時、園子にトイレに拉致られた。
なんでも「他の奴らに聞かれることなく話せる場所」がトイレだそうだ。
…学校外で会えばいいだけの話だと思うけど、園子は園子で「学校外の時間」は江古田の彼に優先的に使えるようにって気を遣ってくれてるから黙っていた(電話で話さないのも快斗くんとの時間邪魔しないためっぽい)
「これから何があると思う?」
「これから?…期末テスト?」
「クリスマスと年末年始でしょうがっ!!」
「いったーい!」
私の言葉に園子が容赦なくおでこを叩いてきた。
でも言わせてもらいたい。
おでこを叩きやすいのは私じゃなくて園子のおでこだからね!
「あおい、あんた去年は新一くんとロスに行ったでしょ」
「園子よく覚えてるねー」
「まさか今年も新一くんと過ごす気じゃないでしょうね?」
目の前で腕組みをして私を見てくる園子。
「うーん、どうだろ?別にまだ声かけられてないけど、」
「じゃあ先手必勝よ!」
「え?」
「江古田の彼を誘うのっ!」
「…えっ!?」
園子は前のめりに私に迫ってきた。
「いい?あんたは今、念願叶って家こそちょっと離れてるけど、憧れの彼と毎日連絡取れるっていう良いポジションにいるの!」
「う、うん」
「けどねー、今は冬!!これからクリスマス、年越し、初詣、バレンタイン!行事が目白押し!!」
「まぁ…うん、そうだね」
「うかうかしてると他の女に取られるわよ!?」
「…えっ!?!?」
驚いた私に、園子は顎の下で拳を軽く握って考えるような素振りをしながら口を開いた。
「あおいの話しによると?その彼、優しくてカッコよくてマメなんでしょ?」
「う、うん」
「断言してもいいけど、絶対他の女も狙ってるわよ?」
そりゃーさ、快斗くんがモテないわけないと思うの。
だってあんなにカッコいいんだよ!?
しかも優しさレベルカンスト起こしてるし!
だからモテないわけない。
でも他の子と快斗くんが一緒にクリスマス過ごしてるとか
「やだ!」
考えただけで胸が…モヤっ?それともキュッ?どちらとも言えないけど、そんな感情が沸いてくる。
「でしょ?だからあんたから誘いなって!」
「…で、でも、」
「うん?」
「そんなクリスマス一緒になんてそんなだって別に彼氏彼女ってわけでもないんだし、」
「だー!!もうごちゃごちゃ言わないの!!」
私がゴニョゴニョと喋ったら、園子が声を大きくして叫んだ。
「いい?あんたが躊躇ってるすきに、彼の身近にいる女が彼に迫ってんの!こっちはただでさえ距離のハンデがあるんだから、それくらいの気持ちで行動しなさいよ!」
わかった!?って園子は声を荒げて言った。
…言ってることはわかる。
園子の言ってることはわかるけど…。
「な、なんで?」
「うん?」
「なんで急にそんなこと言うの?」
確かに園子はこういう話題が大好物だ。
でもこんな風に無理やり…背中を押す?みたいなこと、今までなかったことだ。
「1年前、あんたと初めて話した時のこと覚えてる?」
園子がそれまでとは違って声のトーンを下げて言ってきた。
園子と初めて話した時って確か…。
「私あの時、新一くんとあおいの仲をからかって話したんだけど」
「…あ、あぁ、うん、確かそんなだったね」
「その時あんたハッキリ言ってたのよ。『他に好きな人がいる』って」
目を伏せながら園子は言う。
「その時言ってた奴なんでしょ?江古田の彼」
「…よくそんなこと覚えてるね…」
私の目を見て話す園子を、驚いて見ていた。
「その時の彼と1年かけてよーーーやく!番号交換までこぎ着けることが出来た友達、応援してやらなくてどーすんのよ!?」
当たり前でしょうが、と腰に手を宛て言う園子に、ちょっと胸がキュッとした。
「あおいは抜けてるとこあるから、私が気づいたアドバイスはしてやらないとでしょ」
フン!と鼻息荒く言う園子に
「園子ありがとう!」
感極まって飛びついた。
ゴン!!!
ものだから、園子の後頭部がトイレのドアに激突してしまった…。
「ご、ごめん…」
「………」
かなり良い音が響いたから、痛いと思うの…わりと…かなり…。
後頭部を擦りながら、
「あんた私にたんこぶ作った分はしっかり行動で返しなさいよ」
そう言って園子はトイレを後にした。
…年末年始の予定…快斗くんにちょっと聞いてみよう、かな…、なんて。
園子の後ろ姿を追いかけながら、そんなこと思った。
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bkm