■ 1
「ユナ。オレのところに…砂隠れに来い」
「…はい!」
それは私と風影様にとっては深い意味のない言葉だった。
少なくとも私の返事に深い意味は含まれていなかった。
ただ問題だったのは、その言葉が交わされたのが忍界大戦後、集結していた各里の忍たちが己が里に帰郷する直前だったこと。
他里よりも重傷者が多くなかなか動きが取れずにいた木の葉隠れの里の忍が特に懇意にしていた砂隠れの里の忍に別れを告げていた時に交わされた言葉だったため、そこにいた当事者以外の者が見事に勘違いしてくれた。
「待ってるぞ」
私の返事を聞いた風影様は満足そうな表情を見せ、仲間を引き連れ砂隠れへと帰って行った。
「…マジかよ!」
「え?」
砂隠れの人間の姿が見えなくなったかならないかくらいのところで、シカマルが口を開いた。
「お前何してんだよっ!」
「何が?」
「ただでさえ他里婚はめんどくせぇのに、単に他里に嫁ぐのとわけが違うんだぞ!?なのに何あっさりと風影の求婚受けてんだよっ!」
家の事情で入学の遅れていた私よりも、2つ年下だけどアカデミーの同期で今や私の班の長を務めてる…腐れ縁にも近い何かが生まれ始めているシカマルが焦ってるような顔して言ってきた。
「求婚?求婚て誰が?」
「はぁ!?だから今我愛羅にされただろ!?」
「…は?求婚?あれが?どうして?」
「どうしてだぁ!?どっからどう聞いても求婚だろうがアレは!!」
お前何言ってる、と言う言葉こそ口には出さないが、体全体でシカマルはそう言っていた。
「…や、ちゃんと聞いてた?風影様からは『砂隠れに来い』って言われただけで、」
「だからそれが求婚だっ!」
「…いやいや、だって本当に、」
「だー!もうお前黙ってろ!!おいっ、ヒナタ!今の聞いてたよな!?」
シカマルは近くにいたヒナタに話を振った。
「お前今の我愛羅の言葉聞いてどう思った!?」
「…き、求婚、かな、って…」
「え、」
「だよな!?ほら、普通はそう思うんだって!」
聞いただろ、とシカマルは私に振り返って言った。
「…ほら、2人は風影様のことよく知らないから、」
「知らなくともアレはそういう意味だ!」
頑として譲らないシカマルに、
「じ、じゃあ木の葉に帰ったら聞いてみたら?手紙でも出して」
ヒナタが提案してきたわけだけど…。
「馬鹿言ってんじゃねぇよ!相手は風影なんだぜ?俺がお前らに手紙出すのとわけが違うだろうが!この事を火影様にも言って正式に使者を立てて、」
「え!?そ、そんなことしなくていいから!風影様には私から手紙書くから!それでいいでしょ!?」
「よくねぇんだよ!『風影』が公衆の面前で木の葉のくノ一に求婚してきたんだ。面倒だがこっちだってそれ相応の対応ってのがあるんだよ!」
ちったぁ考えろ、とブツブツ言いながらシカマルは去っていった。
「…どうしよう、なんだか大変なことになった気がする…」
「でも、私たちよりはユナの方が風影様を知ってるから、もしかしたら本当にユナの言うことが正しいのかもしれないよ?」
「う、うーん…」
シカマルの言動にすっかり動揺した私に、ヒナタは同情の眼差しを向けながらそう言ってきた。
「…本当に、」
「うん?」
「風影様の性格からしても、あの言葉にそういうつもりはなかったと思うんだけど…」
「……そこはしっかり確認とってもらおう?」
私の背中をポン、と叩いたヒナタの手がやけに重く感じた。
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bkm