■3
「ラ♭って…、足音の音程でわかったってこと?」
そう私に声をかけてきたのは、メガネの女の人。
それにコクリ、と、首を縦に振った。
…私が人とコミュニケーションを取るのが苦手な1番の理由。
それは私の「絶対音感」と言うものにあった。
人の話し声が、大小さまざまな声が、いつしか騒音にしか、聞こえなくなったからだった。
「じゃあさ、じゃあさ!」
メガネの女の人は、突然顔を紅潮させて、身を乗り出して聞いてきた。
「私やリヴァイの足音なんかも聞き分けられるのかい!?」
「…た、ぶん?」
「ほんとにー!?やってみていい!?いいよね!?やるよ!?はい、後ろ向いて目瞑って!!」
お姉さんの勢いに圧倒されて、言われるがまま後ろを向いて目を瞑った。
「いくよ?」
トン
「コニーの足音?」
「…じゃあ今度はこれ!」
コン
「…お姉さんの足音?」
「じゃあ次!」
その時、扉が開いた音が微かに聞こえた。
ドン
「…リヴァイ、さん?」
「じゃあ、最後!」
カツン
「…」
「今のはだーれだ?」
「…今、」
「うん?」
「今、部屋に、誰か入ってきました、よ、ね?その、人?」
「…ほぅ…。」
私が答えると、聞きなれない声が響いた。
「すごい!!全問正解っ!!会ったことないエルヴィンの音まで聞き分けちゃうんだねっ!!」
「これはなんの遊びだ?」
お姉さんの声に、振り返ると、今部屋に入ってきたらしいエルヴィンと呼ばれた人は、私を見ながら聞いてきた。
「エルヴィン!このコおもしろいよ!!足音で誰が来るかわかるんだって!!ミケタイプだよ、このコ!!!」
「耳が良いのか…。あぁ、『だから』物が飛んでくる方角がわかったのか?」
「そうなのっ!!?」
エルヴィンさんは顎に手をやりながら、聞いてきた。
その言葉に、お姉さんがさっき以上に興奮した様子で私の肩を掴んできた。
「あ、う、や、」
「姉ちゃん!!」
お姉さんの勢いに、あわわとなっていた私をコニーが助けてくれた。
「ねぇねぇ!それって人間だけしかわからないのかい!?」
「え?」
お姉さんから解放された…、と、言うのは体だけで、実際何も解放されたわけじゃなかったらしい。
「ハンジ。何を考えてる?」
「たぶんリヴァイと同じことじゃないかなー?」
ハンジ、と呼ばれたお姉さんは、リヴァイさんを見ながらにやっと笑っていた。
「えぇーっと、キミ名前、」
「フィーナ、です…。」
「そう!フィーナだ!コニーが教えてくれたよね!」
ハンジさんはコニーに向けて笑いかけた。
「その力、人間以外はわからないのかい?」
その直後、私を見たハンジさんは、口元は笑っていたけど、目は真剣そのものだった。
「え、えぇー、っと、」
「回りくどいぞ、ハンジ。」
私が困っていると、リヴァイさんが再び口を開いた。
「フィーナ。お前のその耳は、『なんでも聞き分けられる』のか?巨人の音すらも。」
その声は、さっきまでの怒っている音程とは、違うのはわかる。
だけどどこか、疑うような音色をしていた…。
.
bkm