ラブソングをキミに


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奪われた凡庸な日々


2


私は現在、


「姉ちゃん、ごめんて…。」


コニーと言う少年に、ひたすら謝罪されていた…。


「だ、だから私別に怒ってないですから、」
「その他人行儀な口調が怖ぇんだってっ!!」


さっきからこれの繰り返しだ。
ここはパパかママの友達の家で、パパかママが何かを頼んでこんなことになっているんだと思っていたけど、…なんだかおかしい。
コニーと言う少年は、私を「姉ちゃん」と呼ぶ。
そしてコニーが「母ちゃん」と呼んだ女の人は、私に対してまるで…娘のように接してくる。
それも不自然じゃなく、すごく自然に。
なんで?どうして?自問自答してもわかるわけがない。
でもどうやって、どういう風に聞いたらいいのかもわからない。
どうしよう、どうしよう、そんな言葉ばかりがぐるぐると頭を駆け巡って、だけどそれを上手く音には出来なくて…。
そんな自分になんだか泣きたくなってきた。


「…姉ちゃん!?どうしたんだよ!?まだどっか痛ぇのか!?」


心配して私の頭を撫でてきてコニーの小さな手に、1度零れてしまった涙を止めることは出来なかった。
コニーと一緒にいた女の人、…母親のように接してくる女の人は、まだ体調がよくなってないからもう少し寝てなさいと言って、コニーと共に部屋から出て行った。
いつも、部屋に1人だったのに。
いつもと変わらないのに。
ただ見慣れないってだけで、こんなにも心細く感じるなんて…。
それを上手く、言葉に出来ないなんて…。
自分自身に嫌悪しながら、この不安に蓋をするかのように、ベッドに横になった。




「母ちゃん、姉ちゃん大丈夫なのか?」
「ん?うーん…。」
「流行病にかかって高熱が出た奴は、頭がおかしくなるってみんな言ってた…。」
「…高熱が出て、頭にバイキンが入るとかなんだとか、先生が言ってたね…。」
「姉ちゃんももしかしてそれなんじゃ、」
「…明日もう1度、医者に診てもらおうか。」




そんな会話がされているなんて、気づくこともなく、私は眠りについた。
私はもしかしたら何かを期待していたのかもしれない。
今さっきのことは夢で、目が覚めたらいつもとなんら変わらない、自分の部屋が広がってる、って。
だけど…。


「フィーナ、起きた?」


翌朝、目が覚めてもやっぱり私の部屋じゃない部屋で…。


「具合はどう?」
「だ、大丈夫、だと、思いま、す…。」


私に問いかけるその人は私のママじゃなく、昨日見た、コニーのママだった。


「…今日は、お医者さんに診てもらおうか…。」


私の言葉に苦笑いしながら、コニーのママは言った。
それから朝食をとったり、着替えたりしていたら、コニーのママが言っていた「お医者さん」がやってきた。


「じゃあ、…いいかな?」
「はい。」
「これからするいくつかの質問に答えてください。」


私が先生の質問に答えられることを答え終わったら、先生は大きく1つ、息を吐いた。


「先生、フィーナは、」
「…やはり、お母さんが仰っていた通りのようです。」


コニーのママが、ハッと息を飲んだのがわかった。


「…フィーナ、よく聞いてくれるかい?」
「は、い…?」


私を「フィーナ」と呼んだ先生の話は、こうだった。
私は数日前、流行り病に倒れた。
その流行り病は軽度で済む人もいれば、重度に寝込む人もいて、私は後者、高熱を出して寝込んだらしかった。
そしてその流行り病で高熱を出した人は病後の症状こそ違うものの、ほぼ全員が、脳にウィルスが入り何かしらの後遺症が出る。
…私の場合、高熱の影響で、記憶障害…いわゆる記憶喪失、と言うものを引き起こしているとのことだった。


「ち、違います…!だ、って、だって、私は、」
「…記憶がね、混乱しているんだ。治る場合もあれば、…このままの場合もある。無理に思い出そうとしなくていいから…。」


先生は私の頭に手をやり、優しく言った。
…記憶喪失?
そんなわけない。
だって私は昨日まで「日本で生まれ育った名字名前」と言う記憶があるんだから。


「わ、私、フィーナなんて名前じゃなくて、」
「フィーナ、きっと長い夢を見てたんだよ。1週間近く寝込んでいたんだから…。あんたはフィーナ・スプリンガー。私の娘だよ!」


…違う、違う、違う!
私は名字名前と言って、だって昨日までこの人は知らない人だったのに、いきなり娘だなんておかしいよ!
だって私は、


「姉ちゃん!」


私は、


「姉ちゃんが俺を忘れても、俺が姉ちゃんを守ってやる!!」


わた、し、は…?
私に記憶がない、と知った時、泣きそうな顔をしていたコニーは、目を少しだけ潤ませながら、ドン、と、小さい胸を叩いて笑っていた。

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bkm

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