ラブソングをキミに


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訓練兵の休日


3


「テメェ、」
「…はい?」
「次の休暇は乗馬訓練だと思え。」


…それはつまり、次の休暇もあなたに会わないといけないんですか?
なんて口が裂けても裂けなくても言えない私は、


「…………はい。」


とだけ答えた。
リヴァイさんはどうやらさっき馬とコンタクトを取り損ねた私にいたくご立腹のようだ。
いや、自分が乗っている馬が暴れだそうとするくらい下手な騎手に対して、当然といえば当然なんだろうけど…。
でも私最初に言いましたよね?
馬に乗ったことない、って…。
そりゃあ「あの」1ヶ月半の鬼特訓で乗馬訓練もありましたよ?
ありましたけどそんなたかが1ヶ月半であなたやハンジさんのように乗りこなせるはずないじゃないですか…!


「…………」
「…………」


なんて、言葉に出来るわけないことを悶々とただ思っているだけの私と、まず間違いなく怒っているリヴァイさんに会話なんてものがあるはずもなく、その後トロスト区に着くまでの間、蹄の音だけが辺りに響いていた。


「着いたぞ。」


トロスト区の壁門をくぐり抜けしばらく進んだところで、長い沈黙をリヴァイさんが破った。


「降りろ。」
「は、はい。」


リヴァイさんはトロスト区の中心地よりやや路地に入ったところでサッと馬から降り、私にも馬から降りるように言ってきた。
慌ててリヴァイさんの後に続いて馬から降りると、近くにあった馬を繋いでおくため至るところで見かける木の杭のようなものに馬を繋いだリヴァイさん。


「…何してる?入るぞ。」
「こ、ここに、です、か…?」


リヴァイさんが「入るぞ」と言ったところは誰がどう見ても、


「パン屋さん、です、よね…?」


店の外からもそうだとわかる造りのパン屋だった…。


「嫌いか?」
「え?」


何度も言うけど、私は人とコミュニケーションをとると言う行為が苦手だ。
そしてリヴァイさんはそういう人間と会話をするというのに問題がある人じゃないかと思う。
あまりにも簡潔すぎてたまに必要な部分がすっぽりと抜け落ちている。
…ので、その解釈に時間がかかる。
この場合の「嫌い」って言うのは、「パンが」嫌いか?って、こと、だ、よね…?


「べ、別に、そんなことは、」
「なら問題ない。」


そう言い店内に入っていくリヴァイさん。
……………ちょっと待ってくださいっ!
なんで朝から呼び出されてはるばる馬を飛ばして来た先がパン屋なんですかっ!!?


「あ、あのっ…!」


あまりに不可解な行動に、後について店内に入り声をかけると、チラリとこちらに目を向けたリヴァイさん。


「好きものを選べ。」
「…え?」


クィッ、と顎で店内に並んでいるパンを示しながら、リヴァイさんはそう言った。
………………「好きなものを選べ」?
え!?パンを選べ、ってこと!?
なんでなんでなんで。


「…早くしろ。」
「あ、いや、あのっ、…ど、どれがいいのか、わからない、って、いう、か…。」
「はぁ!?」


テメェ何言ってんだ?くらいな勢いで声をあげたリヴァイさん。
でも一言言わせてもらいたい。
「はぁ!?」って言うその台詞は私の方が言いたい台詞だ。
今のこの状況は「はぁ!?」以外の何者でもないですよね?
これは一体何なんですかっ!?


「…適当に選んでやるから外で待ってろ。」


めんどくせぇな、的に言いながらリヴァイさんはシッシッ、と擬音がつきそうなほどわかりやすく私を手で払った…。
全くもって今の状況が理解できないけど、とりあえず外で待っていようと店を出た。
…「適当に選んでやる」って言うのは、「パン」を選んでやる、ってことでしょ?
え?なんで?
そもそも今日はなんでトロスト区に来たの?
え?なんでなんでなんで。


「持て。」
「あ、は、い…?」


店内からパンが入ってるんだろう袋を持って出てきたリヴァイさん。
ついて来いって言われて、よくわからないまま後を着いて行くと、少し寂れた公園のような場所に出た。
…そこの一角のベンチに、ドカッ!とリヴァイさんは座り、


「…」


目線だけで、隣に座れ、と訴えてきた…。


「あ、あのっ、」


おかしい。
さすがにこれはおかしい。
だって今日は、


「訓練するんじゃ、ないんです、か…?」


鬼特訓の続きが待ち受けているんだとばかり…。
でも私のその問いに、


「いつ誰がそんなこと言った?」


馬鹿かお前?って勢いでリヴァイさんは答えた。
…………いや、誰もそんなこと言ってないけど、先日のあの流れで確実にそうだとしか取れなかったのはコミュニケーションが苦手な私のせいなんでしょうか…?


「貸せ。」
「え?あ、」
「いらねぇならやらん。」


そう言って私が持っていたパンを取り上げたリヴァイさん。


「あ、や、い、ただき、ます…?」


今だ状況を飲み込めていない私に、リヴァイさんは目を逸らし1つため息を吐いた。


「立体機動訓練、」
「え?」
「トップを取った褒美だ。」


………………「褒美」って言うのは、「ご褒美」のことですよね?
え、そういうのって普通もっとわかりやすく与えるものなんじゃないんですか?
それとも私の認識が間違っている、もしくはリヴァイさんの言葉を上手く捉えられず間違った解釈をしてしまった、とか…?
だから今こんな状況になっている、とか…?


「あ、りがとう、ござい、ます?」


いろんなことが「?」のまま、とにかく「ご褒美」をくれたのだから、と、リヴァイさんにお礼を言ったら短く、あぁ、とだけ言われた。
私の「記憶の中」にある世界のパンは、もっとこう…、チーズが入っていたり、ベーコンが入っていたりとか、そういうパンで、私はむしろそっちの方が好きだった。
でもリヴァイさんが選んだのはごくごく普通の、所謂べーグルと呼ばれていたようなパンで。
私が好きだったパンに比べたら、すごく味気ない。
だけど、


「…………」
「…………」


この日、黙々と食べたこのパンの味を、きっと私は、生涯忘れないと思う。

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bkm

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