ラブソングをキミに


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3つのうちの1つ


6


「あ!来た来た!今から馬に乗ってシガンシナまで行くけど、」
「…」
「…」
「フィーナは私とリヴァイ、どっちの馬に乗りたい?」


ハンジさんがリヴァイさんの分も馬を用意してくれた。
その間、もちろん私はただひたすらに無言でリヴァイさんに担がれていた。
私は普通に日本で生まれ育ったから乗馬経験なんてない。
だから乗せてもらえるのはありがたい。
そしてどっちがいいか、選択権を私にくれるのは、本当にありがたい話だった。


「じ、じゃあ、」
「お前の2人乗りは遅ぇ。俺の馬に乗れ。」


ハンジさんが与えてくれた選択権は、あくまで「ハンジさん」が与えてくれた「選択権」なだけであって、「リヴァイさん」に「決定権」があったようだった…。


「なんだ?言いたいことがあるなら言え。」
「…べ、別に…。」
「じゃあさっさと乗れ。」


言いたいこと?そんなの山ほどあります!
私、あなたと初対面ですよね?大体にして私が、石をぶつけられそうになっていたあなたを庇ったことで縁が生まれたんですよね?それなのにこの仕打ちは何ですか?私は荷物ですか?そもそもコニーに何したんですか?黙らせたってどうやって?
なんてぐるぐる思っていても、それをどういう風に言葉にしていいのかなんてわからなかった…。


「何してる。さっさと乗れ。」
「…う、」
「あ?」
「馬の、乗り方がわかりません…!」
「はぁ?」


頑張れ私、頑張れ私、と、何度も何度も自分自身に言い聞かせた。
…じゃなきゃとっくに心が粉々に砕け散っている。


「チッ…、ほら手貸せ。」
「す、すみま、うわぁ!?」


騎乗した状態でリヴァイさんが手を差し伸べてきた。
それを掴もうとした瞬間、リヴァイさんが私の腕を掴んで軽々と自分の前に私を騎乗させた。
…さっきも思ったけど、この人見た目以上にすっごい力がある…。
エルヴィンさんに比べたら、と、言ったら失礼だろうけど、すごく小さい人だったのに、やっぱり兵士なだけある。
なんて、失礼なことを考えていたことを見抜かれたかのように、


「フィーナ。」


リヴァイさんの声が響いた。


「は、はい…!」
「舌噛んで死にたくなかったら、無駄口叩くんじゃねぇぞ。」
「…はい。」
「ハンジ、前を行け。」
「了解。じゃあフィーナ、リヴァイに振り落とされるんじゃないよ?あとでね!」


そう言った直後、パカパカッ、と馬が走り出す音が聞こえた。
直後、


「行くぞ。」


リヴァイさんの声が響いて私が乗っている馬が駆け出した。
それもあり得ないくらい!全速力でっ…!!!


−リヴァイに振り落とされるんじゃないよ?−


やっぱりハンジさんに乗せてもらいたい、って言うんだった…!!
この人怖いっ!!ずっと睨んでくるし、口調もなんか怒ってるし!!
それにほんとに振り落とされるっ…!!!!!


「…」


私が必死でリヴァイさんにしがみついている間、リヴァイさんはただただ無言でハンジさんの後を追って馬を走らせていた。


「この先がシガンシナだよ。」


どのくらい、馬を走らせたのかわからないけど…。
馬の速度が落ちたな、と思ったら、ハンジさんの声が聞こえた。
馬を止めた先、見上げると、高い高い、天空まで続くんじゃないかって言うほど高く聳え立つ壁が視界を覆った。


「ここから上に昇ったら、すぐ外が見えるから。」


馬から下りて、壁の中に入ったら階段があって、あんな天空まで聳え立っていた壁の中の階段、なんて何段あるのかわかったものじゃないのに昇れるわけない。
なんて思っていたら、


「きゃあ!?」


再びリヴァイさんに担がれて、壁の中を進んでいった…。
もっともずーっと徒歩ってわけではなく、ちょっと古い感じだけど、きちんとエレベーターが備え付けられていて、それに乗って上を目指した。


「ほら!着いたよ!!」


動くと何を言われるかわからないから、また微動だにしないようにと、静かに静かにしていたら、ハンジさんの声が響いた。


「見て。こっち側がフィーナが今来たウォール・マリア。で、ここがシガンシナ。それでもって、こっちが壁の外の世界!」


ハンジさんの言葉を耳に入れながら、リヴァイさんの肩から下ろされた私は、眼下に広がる景色をただただ、呆然を眺めていた。


「あ!ほらほら!見えるかい?壁の周りに1体いるだろ?あのコが巨人。」


シガンシナ、と呼ばれた区域の中にいる人と思しき物体は、壁の頂上から見下ろすと、豆粒くらいにしか見えない。


「…」


だけど、ハンジさんが教えてくれた「巨人」と言うのは、


「…ほんとに、」
「うん?」


この距離からでも「人」と言う形なのがわかる大きさだった。


「ほんとに、巨人、なんです、ね。」
「え?」
「あ、いや、あの…。わた、し、『巨人』て2メートルくらいなのかと、思、って、」


だって、あんなに大きい「人」なんて、あり得るわけが、ない。


「あはははは!!!」


だけど、私の戸惑いを、ハンジさんは見事に笑い飛ばしてくれた。


「そりゃー、フィーナやリヴァイからしたら2メートルで『巨人』かもしれないけどね!」


そう言って笑うハンジさん。
…の、後ろで物凄い目で睨みつけてるリヴァイさん…。
…ハンジさんお願い、もう少しこの状況わかって…!!
なんて言葉になることはないことを思った。


「あれはそうだなー、たぶん7メートルくらいだよ。」
「ななめーとる…。」
「大きいのだと10メートル超えのコもいる。」


「人」の形をした生き物が、7メートルとか、10メートルとか…。
そんなこと、やっぱり夢の中の世界でしかあり得ない。


「え!?」


そう思った時、リヴァイさんが何かで私に目隠しをした。


「さっさと済ませて帰るぞ。」


そう言いながら、きつく布を結び、私の視界を奪うリヴァイさん。
なんで?どうして?
そりゃあさっきも目を瞑って、って言われたけどそんなここまでしなくても、って。
言葉に出来ずにぐるぐる思っていたら、カチャカチャと、金属音に似た音が数回聞こえた。


「フィーナ。」
「は、はい?」


金属音が止んだと思ったら、リヴァイさんの声が暗闇の向こうから聞こえてきた。


「巨人に食われて死にたくなかったら騒ぐな暴れるな。俺の質問にだけ答えろ。いいな?」


それはどういう意味ですか、と、聞き返そうかと息を吸い込んだ瞬間、


「行くぞ。」
「…っ、いやぁぁぁぁっぁ!!!!」


体が宙に浮いたのを感じた。

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bkm

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