■21
「警部、まもなく閉館時間になります」
キッドの予告当日。
ターゲットのドラゴンストーンが展示されている博物館は20時閉館。
私たちはそこから現場に対キッド用に考えられた配置につく。
「いつも思うのですが」
「どうした、佐藤さん?」
「予告状、読み間違えることないんですか?」
今日も鈴村さんと現場に来た私は、常々疑問に思っていたことを尋ねた。
「うーん、それこそ暗号みたいな予告状の時は専門家に頼るけど、今日のは簡単だったから大丈夫でしょ」
それでも念のため最低限は朝から配備してるけどね、と鈴村さんは言う。
「専門家とは?」
「ほら、工藤くんとか、毛利さんとか。私立探偵の知恵を借りたりするんだよ」
「なるほど」
私の疑問にも鈴村さんはきちんとこたえてくれた。
確かに今までの事件について調べていたら、私じゃ解けないような文章だった予告状もあった。
何故解けるかもわからない文章にしたのか。
そもそも予告状を出す意味は?
あえて予告状を出すことで注目を集めたい?
誰からの?
民衆からの注目?
なんのために?
「佐藤さん!」
「はいっ?」
考えこんでいたら鈴村さんが少し大きな声で私を呼んだものだから、思わず返事の声が裏返ってしまった。
「難しい顔してるけど、犯行予告までまだ少し時間あるから休憩する?」
外の空気でも吸ってきたら?と鈴村さんに言われて、一瞬躊躇った物のキッドが来たらそれどころではなくなると思い好意に甘えさせてもらった。
博物館の外、単純に玄関から出ようかと思ったけど、もうそれぞれの配置についている警官もいるだろうし、
ー月が見える場所で会えるかもなー
ここはあえて屋上にでも行こうか。
快斗さんのショーの観客には、子どももいることからか早い時間に始まることが多い。
…時間的にもう彼のバースデーショーは終わっている頃だろう。
彼ももしかしたら、同じ瞬間に月を見るかもしれないなと、屋上に向かいながら思っていた。
ー月が顔を隠す前にー
ー月が見える場所でー
それは2人の人間の言葉だ。
けど、屋上への扉を開けた瞬間、この2つの言葉が脳内を駆け巡った。
「おやおや、随分とお早いお越しで」
扉の先には私たちが今まさに確保せんとしている、天下の大泥棒が大胆不敵にも屋上のど真ん中で消えゆく月を眺めていた。
「シー。…どうせ予定時刻まで時間があります。少し2人きりで話してみませんか?」
私が口を開こうとした直後、キッドは人差し指を口元に持っていき、綺麗に口の形を半月にした。
きっと逮捕を目指す警官であれば、その答えはNoだろう。
でも私の狙いはこの男のミスを、逮捕に繋がる確固たる証拠を手に入れることだ。
「さぁ、扉を閉めて」
中森警部にバレれば始末書どころの騒ぎではないだろうと言う自覚はあった。
だけど、
「さぁ、こちらへ!」
今しかチャンスはないと思い、キッドの発する言葉通り屋上へと続く扉を静かに閉めた。
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bkm