■1
拝啓、天国のお母さん。
ご無沙汰してます。
ようやく周囲が落ち着いて来ました。
ほんとはもっと早くお母さんに話したかったんだけどね…。
これから話す、私に起こったまるで…魔法のような胸が高鳴る出来事は、私とお母さんだけの秘密です。
…ううん、厳密には私とお母さん、そして「彼」だけの秘密です。
−ほらほら、七海ちゃん、もう泣かないで−
−うっ…、ぐすっ…−
−もうお家に帰らなきゃでしょ?−
−やだぁ!ママともっと一緒にいるー!−
−七海、泣いてばかりいるとママは心配でゆっくり休めず、病気を治せないよ?−
−いーーーやーーーー!!−
−ねぇ七海ちゃん−
私の母親は、私が物心ついた頃にはもう入院生活を送っているような病弱な人だった。
今はもう、記憶の中で朧げになっていく姿しか思い出せないけど…。
短い時しか一緒にいることが出来なかったけど、優しい優しい、お母さんだった。
−いとこの美和子ちゃん、また柔道の大会で優勝したんだって−
−…ぐすっ…美和姉ちゃん?−
−そう。ねぇ七海ちゃん−
−な、なに?ぐすっ…−
−お母さんね、−
「美和姉ちゃん!」
「お、来たなぁ、新人警官!」
−七海ちゃんが美和子ちゃんのような強くて優しい子になってくれたら、すごく嬉しいなぁ−
「今日いよいよ配属部署が発表されるの」
「そう!…そう言えば目暮警部がうちにも新人が入るって言ってたわね」
−…わかった!私も美和姉ちゃんみたいな女の子になる!!−
「ほんと!?美和姉ちゃんと一緒に働けるかなぁ?」
「さぁ、それはどうかしら?」
−美和姉ちゃんみたいに強くて優しい、美少女戦士みたいな女の子になるっ!!−
「佐藤七海巡査!」
「はいっ!!」
今はもう、天国にいる母と約束した唯一のこと。
その約束を今日ようやく、叶えられる。
「警視庁捜査二課配属っ!」
この日私は、新人警官として警視庁捜査二課に配属された。
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bkm