Treasure


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誘惑の雨を降らせて


1


そろそろ本格的な梅雨入りも間近だと言われる今日この頃、それを象徴するかのように空は厚い雲で覆われ、しとしとと冷たい雨を降らす。


だが気温は決して低すぎると言う訳でもなく、湿度も上がっており、じんわりとした汗で肌に制服のシャツが纏わりつき心地悪い事この上ない。


朝学校に行く前は、まだ少しは晴れ間も覗いていた。しかし午前中の授業を受けている頃にはもう既に太陽は厚い雲に隠され、昼休みになろうと言う頃には雨が降り始めていた。


いつものように蘭と園子とともにお弁当を囲んでいれば、園子が盛大な溜め息を吐きつつ窓から見える空をうらめしそうに眺めた。


「……ったく、なんで今日降るかなあ。傘置いて来ちゃったわよ……」

「あれ? 園子、傘忘れちゃったの?」


私の疑問に、園子はこめかみをひくつかせながら答えた。


「だって、今日の降水確率そんなに高くなかったじゃない! なのに降るってどう言う事よ!」

「……そんな、私に怒られても……」

「……って言うか、名前はどうなのよ? アンタは傘持ってるの?」

「うん、私ロッカーに置き傘が1本置いてあるから」

「蘭は!?」


私の言葉に園子の苛立ちは更に募ったらしく、その矛先は玉子焼きを口に入れようとしていた蘭へと向けられる。


「私? 私は持って来たわよ。今日、何となくだけど降りそうな予感がしたから」


微笑み返しながら蘭はそう言い、そして玉子焼きを口の中に放り込んだ。


「あ〜〜ッ! 私だけなの? 傘持ってないの!」

「部活が終わるまで待っていてくれたら、一緒に帰るけど……」


玉子焼きを飲み込んだ蘭がそう話しかければ、園子は首を左右に振ってそれを断った。


「今日、パパの友人の会社の創立40周年記念パーティーがあるのよ。だからそれに間に合うように、学校が終わったら直ぐに帰るように言われてるのよ」


お嬢様と言うのも、何かと大変らしい。


「そっかあ……、私も今日委員会の仕事があって、遅くなりそうなんだよね……」


どうしようかと思案を巡らす。そして次の瞬間、一つの案を思いついた。


「じゃあさ、園子、私の傘を使いなよ! 私は蘭と一緒に帰るからさ!」


そう言いながら蘭の方へと視線を向けると、蘭も頷いて同意してくれた。しかし私たちの意に反して、園子はその申し出を受け入れてくれなかった。


「良いわよ、二人とも終わる時間は一緒じゃないんでしょ? どちらかが終わるまで一方を待たせるのは心苦しいしね!」

「でも、園子……」

「最悪、うちの者に迎えに来させればすむ話なんだから! でも、その前に――」


園子は一旦言葉を切ると、何やら含み笑いを浮かべつつこう続けた。


「……傘を貸してくれそうな人物に、一人だけ心当たりがあるのよね!」


そう言って園子は斜め後方へと視線を向けた。だがその方向には大勢のクラスメイトたちがいて、一体誰を見ているのかは分からない。


蘭も一緒になって園子が見ている方向へと視線を向けていたが、やがてその視線は園子へ、そして次いで私の方に向けられると、蘭は納得したかのような表情を浮かべた。


「……ああ! 成る程、そう言う事ね!」

「良い考えでしょ! 絶対、アヤツなら貸してくれるわよ!」


クスクスと笑い合う蘭と園子を交互に見遣りつつ、私一人だけが訳も分からず取り残されていた。


「……どう言う事?」


そう二人に問い掛ければ、二人は一斉に私を見た。そして同時に噴き出した。


「えっ? な、何? 何で笑うの?」


一頻り笑った後、僅かに滲んだ涙を拭いつつ、園子はこう答えた。


「……まあ、アンタも頑張んなさいって事よ!」


訳の分からない言葉だったが、蘭は理解しているようであり、大きく二度頷いた。


結局私だけが何一つ理解出来ないまま、昼休みの時間は過ぎていった。

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