Treasure


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最も大切な日


2


「ね、ねえキッド……。一体何処に行くの?」


陽は既に落ち、闇が支配する中で微かな不安を抱きながらそう問い質した。


「もう少し……。……ああ、そろそろ良いですね。手は離さずに、下に目を遣れますか?」

「……え?」


実は先程ベランダを飛び立ってからずっと、下を見る事が出来なかった。


別に高所恐怖症と言う訳ではない。キッドを信頼していない訳ではない。


ただ恐怖心だけはどうしようもなく、私の心を支配し続けていた為、ずっとキッドの方を見ていた。


だがキッドがそう言ったのには何か理由があるのだと思い、恐る恐る下に目を向けた。


「……わあぁ……」


私の眼下に広がる夜景……、それは無数のネオンが光り輝き、空の星々にも負けない明るさを誇る地上の星々だった。


まるで宝石箱をひっくり返した様な美しさ……、その表現がピタリと当て嵌まるのを感じながら、次第に恐怖心が薄れて行くのを感じた。


「きれい……」

「……お気に召して頂けましたか?」

「うん、とっても! ……って、もしかしてこれを見せる為に……?」

「ええ……。これが私からの誕生日プレゼントですよ、名前嬢?」


その言葉に、一瞬頭の中が真っ白になった。


「えっ!? な、なん……」

「……まさか、私が知らないとでも思っていましたか?」

「だって……、私、一言も……」

「貴女の事なら何でも知っていますよ……? それに恋人の誕生日も知らない男など、いませんよ……」

「…………」

「貴女から連絡があった時は、正直嬉しかった……。ですが欲を言えば、貴女の口から話して貰いたかったですがね」

「そ、それは……。誕生日だと言ってしまったら、貴方が断り辛いかと……」

「貴女の誕生日である今日は、私にとって一年で最も大切な日……。その日に、貴女と過ごす事以外に大切な事なんてありませんよ」

「……っ!!」


その言葉に、思わず涙がこぼれ落ちた。感激のあまり言葉を失ってしまった私は、首筋に顔を埋めその腕にギュッと力を込めた。


「Happy Birthday ……、名前嬢……」


耳元で優しく囁くキッドの声が心に染み渡って行くのを感じながら、流れゆく涙をただ見送っていた……。







...end.


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