■1
今日は、他の人からみたら365日のうちの1日にしか過ぎないだろう。
だが、私にとっては一年で最も大切な日。
私の……、誕生日……。
友人からのメールに嬉しく思いながら、私は一人で部屋のベランダに立っていた。
今日は私の誕生日であるが、一人でベランダに立っているのには理由がある。
それは、もう直ぐ此処に来るであろう、私の恋人を待っている為だ。
「……まだかな……。あっ、来た!」
遠くの空から白い翼で飛来してくるのは、約3週間ぶりの出会いとなる、私の恋人、怪盗キッドだった。
「キッド……! ごめんなさい、急に呼び出したりして……」
白い翼をたたみ、ベランダに降り立ったキッドは、いつもの優しい微笑みを湛えながら私に語り掛けた。
「いえ、勿論構いませんよ……? しかし珍しいですね、貴女の方から呼び出すとは……」
「本当にごめんなさい……。でも、どうしても今日、貴方に会いたかったの……」
そう言って私はキッドに抱きついた。
「……我が儘をきいてくれて、ありがとう……」
「……名前嬢……」
そう……、今日は私からキッドを呼び出したのだ。いつもなら彼の邪魔をしてはいけないと自分を戒めていたのだが、一年に一回……、今日だけは我が儘を言いたかった。
どうしても、キッドに会いたかった。
キッドには、今日私が誕生日である事を話した事は無い。だから何故私が今日呼び出したのかは知らない筈だ。
話すつもりは無い。本当の事を言えば祝って貰いたい、と言うのが本音だが、そこまで我が儘を言うつもりは無い。
特別なプレゼントはいらない。御祝いの言葉もいらない。
こうして会いに来てくれただけで、充分だから……。
手を伸ばせば貴方に触れられる、この瞬間が何よりの誕生日プレゼントだから……。
「本当に、ありがとう……。今日会えて嬉しかった……」
「名前嬢……。……実は私も貴女に頼みたい事があるのですが……」
「……なに?」
「この後、貴女の時間を少々頂けませんか? 付き合って貰いたい所があるのですが……」
「え……? べ、別に良いけど……」
「それは良かった……。それでは参りましょうか……?」
「きゃっ!? ちょ、ちょっと……」
それまで対面して話をしていた筈が、気がつくとキッドに横抱きにされていた。
「それでは行きますよ? しっかりと掴まっていて下さいね」
「ま、待って……」
咄嗟にキッドの首に腕をまわす、それを確認した彼は優しく微笑んでから、翼を広げベランダから飛び立った。
.
prev next
bkm